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メタデータ自由自在

解析困難なメディアほどメタデータが必要となる

第2回

 ユーザの困りごとを創造的に解決するためのメタデータ活用を考えるにあたって、各種メディア(文字、画像、動画、他)ごとの「お困り度」の違いを考えてみたいと思います。今回は、その中で、インターネット、それも主にWeb上でオンラインで共有可能となってきた情報メディアに絞ってお話しします。

物質メディアから情報メディアへ

 情報と対置されるのは物質。MITのメディアラボ創設者・初代所長のN.ネグロポンテ教授の著書「ビーイング・デジタル―ビットの時代」では、情報の最小単位の「ビット(bit)」と物質の単位「アトム(atom)」を対立させ、違いを論じています。1995年の出版当時、将来の経済、文化、社会生活が、触って感じられる物質から、瞬時に全世界で共有できる情報を基盤にしたものに変化することを予言した書籍でした。

 写真は、物質メディアから情報メディアへの変化を象徴する存在です。銀塩という分子(原子の集まり)がメディアだったのが、ビットの集まりとなりました。これは、撮影したオリジナルのことです。紙のプリントという複製品には、今でも似た技術やメディア(紙媒体)が用いられていますが、撮影直後のオリジナルがネガやポジ(スライドフィルム)から、電子ファイルに置き換わりました。これほど端的に、「アトム」から「ビット」へと、短期間に劇的に移り変わったメディアは類例がないように思います。

 余談ながら、デジタル写真データには、「Exif」というメタデータのセットが埋め込まれています。日付時刻、撮影したカメラ本体やレンズの名称、シャッター速度や絞り値などが自動記録されます。これらは大量に撮影するカメラマンが事後に写真を整理し活用する際に、大変便利なものです。

撮影画像の「プロパティ」に表示されたExifメタデータ
撮影画像の「プロパティ」に表示されたExifメタデータ

 銀塩の撮影機材では記録が困難ではありましたが、Canon社の銀塩最後(おそらく)のフラッグシップ一眼レフ、「EOS-1V」というフィルム・カメラには「メタデータ自動記録機能」がありました。それもフィルムの端に露光して銀塩に記録(例えば、筆者が今でも使っているFujifilmの「GA645Wi/Zi」という中判カメラがこの方式)するだけではありません。PCにケーブル接続して、撮影時のメタデータを、再利用の容易なデジタルデータで転送するのです。元々アナログの装置にデジタルデータを生成、処理するハードウェア、ソフトウェアを付け足す設計、開発には相当な苦労があったことでしょう。逆にいえば、撮影情報メタデータにはそれだけの価値があったのだ、ということができます。

コンピュータで処理できない物質メディアにメタデータが必要となる

 現状、インターネット上にはほとんど載っていない情報に、匂い、味、触感、圧力感・力感(腕相撲して相手を強いと感じるなど筋肉や皮膚で感じる感覚情報)などがあります。匂いも味も、分子という物質メディアが媒介しているので、そのままネットに通すことはできません。匂い、味の多彩なバリエーションを正確に情報メディア(ビット)にマッピングし、送り先で、再び物質に戻す、という処理が必要なので実現には相当時間がかかるでしょうし、忠実に再現されたら迷惑な状況もあることでしょう。

 実は画像(視覚)や、音声(聴覚)も、どれだけ忠実に再現できているかというと、疑問もあります。その場の立体的な清々しい雰囲気の光景や、コンサートホールの空気感などを再現するのに普通の液晶モニタやPC内蔵のスピーカーで再現しきれているとはいえないでしょう。実体験を記憶している受け手が、ありありと実物を思い出せるような手がかりを、近似的に表現できているだけ、というべきかもしれません。でも、多くの場合それで十分なところが、匂い、味、触感、圧力感などと違います。

 案外近い将来、これらの分野で実用化のブレークスルーが起こることは有り得ます。ネットを介して腕相撲をリアルタイムで行った実験はあります。立体映像を介してバンド演奏のセッションをメンバーが遠隔地に分散していながら行うといったことも、そう遠くない将来に実現するかもしれません。

 それまでの間は、既存の物質メディアの状態は、やはり自然言語(日本語や英語などの言葉)で表現するか、映像や音のイメージから、受け手に想像してもらうかしかなさそうです。これだけでは、検索や分類が困難なので、もう少し再利用しやすいように、標準化されたメタデータを使う、ということになりそうです。

 コンピュータで処理しようがない物質メディアには、メタデータを付与しない限り、検索、分類、再構成、配信、などがほぼ不可能なので、メタデータは極めて重要だ、といえるでしょう。なお、メタデータは本来「データについてのデータ」であって、物質という実体についてのデータではない、という異論もあるかと思います。しかし、だからといって、「銀塩写真の撮影年月日・時刻やシャッター速度などはメタデータではないがデジタル写真の場合はメタデータである」と定義する意味があるでしょうか。これらは区別なく共通のメタデータとして扱うのが賢く、便利なのではないでしょうか。

 そこで、本連載では、物質メディア、情報メディアを問わず、なんらかのメディアを「実体」「本体データ」とみなした場合に、それらが何であるか説明、補足する情報のことを共通的に、「メタデータ」と呼ぶことにします。

次のページ
情報メディアの中にも解析困難なものと比較的容易なものがある

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この記事の著者

野村 直之(ノムラ ナオユキ)

メタデータ株式会社 代表取締役社長。理学博士。工学部の学生時代からNEC府中在籍時にかけてグラフ理論などの数理工学、計算機アーキテクチャを学ぶ。1985年から自然言語処理を中心に人工知能、認知科学の研究に従事し、主にMIT AIラボ時代の成果を素に理学博士号を取得。言語の難しさを克服するために人間が書き込ん...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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