業務現場の課題を精査、RPAで実現しやすいものから“スモールスタート”で着手
半年ほどの検討期間で、吉川氏にはRPAで実現したいアイデアがたくさん見つかっていた。それらを提示された山内氏は「夢物語のようなご要望もあったので、まずはRPAで解決しやすいものを選ぶところから始まりました」と振り返る。2017年夏頃からRPAで実現したい要望の精査をはじめ、冬にはPoCの提案をまとめ、2018年1月から実現できそうなものの中でも優先順位が高い3つの事業で実証実験が始まった。
「RPAは利用するビジネス現場の人間が積極的に関わらないと使いこなせないことが、トライアルの3か月でよく理解できました」と吉川氏。また、フェリシモはオリジナル商品にこだわる企業であり、現場にもものづくりにこだわる人が多い。そういった人たちはRPAのロボット作りでも、こうしたら良いのではと意見することが多かった。そこにプロフェッショナルのブレインパッドの担当者が入り、実現性を見極め一緒にロボットを作り上げていった。
3ヶ月のPoCの結果は良好だった。さらに評価を継続しロボットをブラッシュアップしたい、また他の要望も試したいと6ヶ月のPoC期間の延長を決める。PoCの終わった2018年11月からは、ブレインパッドのRPAのエントリーパック・ライセンスを購入、本番での運用を開始する。PoCの期間中は、フル機能版でロボットを構築し検証を行った。構築したロボットは、制限のあるエントリーパックでもそのまま利用できた。これにより、フェリシモではスモールスタートを切ることができた。
ロボットで自動化した業務の1つが、商品カタログの印刷原稿チェックだった。かつては商品名や商品コード、価格などについて、印刷原稿のPDFをPC上でExcelデータと突き合わせて人の目でチェックしていた。仮に1商品のチェックに1分かかると、300商品あれば5時間これを続けなければならない。ちなみに1分でチェックできるのは、作業に慣れた人だ。
そこでPDFの印刷原稿から商品名や価格などのデータを自動抽出し、Excelにあるデータとの突き合わせを行うロボットを構築、これにより100商品のチェックも10分以内で終了するようになった。10分間の多くは、サイズの大きなPDFを読み込み、データを抽出する部分で、チェック自体は数秒で終了する。またロボット化したことで、人間が行うと発生するチェック漏れもなくなり、業務精度の向上もできた。本番での運用が始まり「ロボットで実現できる自動化の機能は満足しています」と吉川氏。
ただし、エントリーパックの制限でスケジューラー機能がなくロボットの起動を人が行わなければならない手間があった。また、今後ロボットを他の業務でも構築し運用していくには、ロボット稼働数に制限があるのも課題だった。そこでフェリシモでは、制限が緩和されるブレインパッドのRPAのクラウドパック「BizRobo! DX Cloud」を採用することにする。クラウド版なのでネットワークやセキュリティ設定などを行い、1ヶ月ほどで構築と移行は完了し、2019年5月からロボットの利用が始まっている。フェリシモでは今後、RPAを活用する領域を拡大していくためにも、ロボットを自分たちで構築していくことを検討している。「以前はロボット作りをサポートしてきましたが、フェリシモのビジネス現場で自らロボットを作れるようにする組織作りの面もサポートを始めています」と山内氏は述べる。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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