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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

想定外の処理にダウンしてしまったクラウド その責任はだれに?

性能予測はユーザ企業自身の責任

 このように判決は、実にあっさりとしています。契約を超えたサービスを要求したのだから、クラウドベンダ側に責任はない、性能を予測し、契約を結ぶのはユーザ企業の責任で行うべきこと。そうした判断でした。正論と言えば正論ですが、ユーザ企業としては、なかなかに辛いところではあります。

 例えば、これからECサイト(不特定多数の顧客からの注文を受け付けるようなサイト)を立ち上げようとするとき、通常、サイトのオープン前には、そこに100人来てくれるのか、10,000人来てくれるのか予測は困難です。そうした時、ユーザ企業は、最大値の10,000人を基準に、そこからさらに安全を見て、20,000人分の処理をできるサービスをクラウドベンダに発注しなければなりません。

 そして、実際にオープンしたところ、来たのが100人だったとすれば、クラウド業者に払うお金は、明らかに多すぎることになります。勿論、これは大きすぎると気づいた時点で、契約変更をできるのが、クラウドの良いところではあるのですが、それにしても初期投資として、かなりの金額を無駄にすることにはなります。

 また、政府のように一旦契約したら、それを一年間は変えられないというようなユーザであれば、その間の費用を無駄と知りつつ払い続けなければなりません。実際、世の中のサイトを見ると、かなりの数が、こうした無駄をしていることが伺われますし、場合によってはこうした無駄が、経営に大きな影を落とす場合もあるでしょう。

 そう考えるとクラウドの利用というのは、ユーザ企業にとって、賭けになってしまうのですが、それでは世の中の企業や組織がクラウドを利用することを躊躇させてしまいますし、ひいては日本経済にもそれなりの影響が出てしまう問題でもあるのです。

クラウド業者は"安定稼働"の責任までは持たない。

 この問題を、もう少し引いた眼でみてみると、クラウド利用におけるエアポケットというか、ある部分を誰もケアしてくれない"ポテンヒット"のようなものが存在することが分かります。

 クラウド業者というのは、あくまでユーザからの要望に応じて、サーバ等の資源を提供することを生業としており、この業務には、どれくらいのスペックが必要であるかについては、提案はしても責任は持ってくれません。「容量を超えたらアウト」これが基本的な立場です(もちろん先述のように、容量を超えたら自動的に拡張してくれるサービスもありますが、それはそれで、そういう契約を結んだ上で受けられるサービスですし、すべてのクラウド業者やレンタルサーバ業者が、こうした対応をしてくれるわけではありません)。

 では、やはりクラウドの必要スペックについては、ユーザ企業が責任を持って計算するべきなのでしょうか。この判決でも見られるように本来は、そうあるべきです。自動拡張も含めて、どのような契約をすれば業務が問題なく継続できるのか、そもそもどれくらいの容量が必要であるのかもちゃんと計算することが必要です。

 さらに、例えば異なるクラウドベンダ2社と契約をして、どちらかが落ちても、もう一方がバックアップしてくれる構成を組むこと。そんなことがユーザ自身でできるようになることが必要な時代でもあるのです。

 そうは言っても、自社にはIT人材もいないし、そんなことはできないと考えるユーザ企業が多いのも事実です。そうなってくると出番が回ってくるのが、最近若干、プレゼンスが低下している、SIerということになります。SIerはモノやサービスを単体で売るのではなく、顧客業務が安定して動くことを目的に仕事をするのが役割ですので、妥当な性能の計算や不具合が起きた際のバックアップ方法などを検討して提案します。

 もちろん、こうしたこと自体をユーザ企業内でできれば良いのですが、そうもいかない場合には、こうしたSIerの利用が現実的です。実際にそうしているユーザ企業の方が多数派なのではないでしょうか。(了)

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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