クラウドは規模の経済競争
グレッグ・パパドポラス氏の「世界に5台のコンピュータ」発言はあまりにも有名です。将来、世界のコンピュータは、ごく限られたクラウドネットワークに吸収される。ユーザは、自らコンピュータを所有することなく、ネットワーク上のリソースをサービスとして利用することになるというものです。
今日のクラウドコンピューティングブームはここから始まったと言っても過言ではありません。しかし、各社が独自にサーバを所有し、国内外で多数のデータセンターが提供されている現状を見ながら、なぜ5台で十分な世の中になると言い切れるのでしょうか。
それは、世の中に氾濫する無数のサーバを集約することによって生じる規模の利益が、市場に変化をもたらすと考えられるからです。大量のサーバ群をまとめて「うまく」運用できれば、そのコストが大幅に抑制できます。
つまり、従来の資産所有方式に比べて、圧倒的なコスト優位性を生み出す可能性が生まれるわけです。当然、人々はその優位性を選択することになるでしょう。少なくとも初期の段階は経済合理性の観点から、クラウドコンピューティング環境の活用が進むことが考えられます。
また、絶対金額の低下だけでなく、ユーティリティコンピューティング、すなわち「使った分だけお支払い」モデルへの期待も後押ししています。身近な例で「移動」を例にとって説明してみましょう。クラウドの登場は、これまで自分で所有する「自動車」しか移動手段がなかった人々に、「電車」に乗るという新たな選択肢が提供された状況と似ています。
確かに、線路や車両を用意するためには莫大な投資が必要となります。しかし、プロである鉄道会社がまとめて乗客を輸送すれば、安く、かつ、乗った距離に応じた運賃負担を実現することが出来ます。実際に、私たちは実際の投資額と比較すれば、きわめて安いコストで交通機関を利用しています。
これに比べ、従来の「自動車」所有モデルでは、道さえあればどこにでも行ける自由と引き替えに、車体購入費用はもちろん、税金や駐車場代、保険代など、さまざまなコストが所有者にのしかかります。また、故障した場合のケアも基本的には自分で行う必要があります。
これまでサーバを所有することが当たり前だった世界に現れた新たな選択肢。それが、「所有せずにサービスを利用する」というクラウドコンピューティングの考え方なのです。