ビジネスを推進する目線で、ITは目利きする
福田康隆氏(以下、福田氏):二見さんは、特に国内・外資の保険会社でCIOという要職を歴任され現在はアフラックでCIOを務めていらっしゃいますが、その役割についてまずは教えてください。
二見通氏(以下、二見氏): 現在は当社でIT部門(社員500人、アウトソース2,500人)とデジタルイノベーション推進部(社員30人、アウトソース50人)を担当しています。ITには、大きく2つ「守り」と「攻め」の役割があります。システムの安定稼働を目指し日々行われるシステム運用管理・保守や業務効率化などの「守り」の部分と、ビジネスモデル変革を通じた新たな価値の創造を目指す「攻め」の部分、その両方を担当しています。また、デジタルイノベーション推進部では、UI/UXの向上、データ分析やデータエコシステムの推進など、「攻め」の部分であるDXの推進にも各ユーザーと連携して取り組んでいます。
福田氏:二見さんは、これまでクラウドやAIなどITにおける新しいトレンドに注目して、積極的に取り組んでこられた印象があります。一般的にCIOというと「守り」重視のイメージがありますが、二見さんの新しいものにトライしていくマインドセットはどのように培われたのでしょうか。
二見氏:AIGグループの会社に勤務していた頃、長崎にオペレーションセンターの構築をするプロジェクトに参加する機会をいただきました。そのプロジェクトでは、純粋なIT領域だけでなく、地方自治体との交渉や現地企業との提携、現地での人財の採用など、多伎に渡る業務を経験することができました。その際、ビジネスの視点からシステムのあるべき姿を徹底的に考えること、また、新たな価値を創造するためにチャレンジは欠かせないことを学びました。
その結果、常に日頃から、ビジネスサイドが実現したいことは何か? 必要なのは改善ではなく変革であり、それをいかに効率的に短時間で実現するためにITチームは何をすべきなのか? チャレンジは何か? 利用すべき新技術は何か? を常に考えるようになりました。それが、貪欲な新技術の追求、常にチャレンジすることにつながっているような気がします。
福田氏:ビジネスを推進する目線でITを捉えている。
二見氏:その通りです。言うまでもなく、私どもは生命保険会社であり、システム会社ではありません。生命保険事業を行うためにITは存在します。事業に役立つ道具がITという考えです。しかも、今の時代は変化が非常に速い。何かを導入するのに2ヵ月、3ヵ月と検討していては遅すぎます。それよりも早期に導入して失敗であれば即軌道修正する決断力が重要で、それが新しいものにトライしているように見えるのかもしれません。
Think Big,Start SmallがDX推進のヒント
福田氏:導入に際してはスピード感を重視されているのですね。とはいえ、その判断をする上で様々な知見が必要かと思います。二見さんは変化の速いトレンドに対してどのようにアンテナを張って、情報収集をしているのですか?
二見氏:意識的に自分で領域を制限しないようにしていますね。生保だからこの領域は関係ない、といった判断をしない。国内外のカンファレンスにも積極的に参加している理由もそれです。情報はあればあるほどいい。まずは集める。そして、それをどうビジネスに生かせるかを考えながら取捨選択していきます。
福田氏:取捨選択はどのような視点で行われていますか?
二見氏:まず最初に、当社の場合は企業理念に「新たな価値の創造」というものがあります。これは誰に対するものかというと、当社の5大ステークホルダーである(1)お客様(2)ビジネスパートナー(3)社員(4)株主(5)社会に対するものです。つまり、各ステークホルダーに対して新たな価値を創造するというゴールが明確にある。このことがベースにあり、それを大前提として、判断の基準は大きく3つあります。1つ目は、最小限の投資で最大限の効果を生み出せるのは何か? 2つ目は完了までにどのくらい時間が掛かるのか? 3つ目は業務に複雑性はあるのか? です。よって、たとえば、AI導入やIoTありき、またロボットありきでもないのです。
福田氏:先ほど慎重に検討するよりも、早く導入する大切さも説かれました。
二見氏:以前、アムステルダムのカンファレンスで、スタートアップのピッチを聞いて、興味をもったロボットカンパニーに、帰国後すぐに連絡して取り寄せてみたりもしました。私は、時間を置くことで何かが好転するとは思わないのです。何においても数ヵ月も検討することに、そもそも意味を感じないのです。何かを導入するにしても、見込みが6割程度あると判断できれば、OKとします。残りの4割にリスクがあっても、そのリスクの範囲を理解していれば問題ないと考えています。
福田氏:失敗の許容範囲をあらかじめセットされているのですね。
二見氏:そうです。失敗は小さければ小さいほどいいですし、早くわかったほうがいい。そのためには早く行動することが前提になります。そうすれば、失敗も早めに見えてきますから、軌道修正も容易です。企業理念にもとづく大きなゴールを先に見据えて、目先では小さく始める。そうすると、万が一失敗しても傷口は小さくて済みます。
福田氏:Think Big,Start Smallを地でやられているのですね。
二見氏:そうですね。もちろん、このスピード感を維持するためには、情報収集はもちろん、様々な人とつながり、教えや刺激を受けることも大切です。日本のみならず、世界中のベンチャー企業やVCの方、若手社長の皆様から学ぶことは非常に多いのです。