腕木通信から受け継がれる本質
情報技術を振り返ったとき、どこが出発点となるのでしょうか。コンピューターの誕生を挙げる人もいれば、無線通信技術が確立した頃を思い浮かべる人もいるかもしれません。本書『IT全史 情報技術の250年を読む』(祥伝社、中野明 著)では、生態史観の立場から情報技術の変遷を説明しようとしており、「腕木通信」を出発点としています。
この腕木通信とは、1793年のフランスにおいて発明された通信手法のことで、腕木通信機と呼ばれる3本の腕木からなる装置を利用します。建物の屋上に設置される腕木通信機は、その形によって特定の信号を作るものです。これを10km間隔で配置し、望遠鏡で信号を読み取るという「空中通信」や「視覚通信」と呼ばれる類のもので、現代からすると非常に古典的な手法だといえます。
しかしながら、ナポレオン時代に総距離3,000kmを超える通信網を構築し、19世紀半ばには世界中で14,000kmをはるかに超える規模にまで発展していたのです。とはいえ、このような古典的な手法が情報技術と呼べるのかと疑問に思う方もいるかもしれません。
これに対して著者は、従来までの紙に文字を書いて人が手で運ぶという方法と比べて、メッセージを手に持つことなく送ることができるという点で電信技術以降の情報技術と共通するとしています。つまり、私たちが現在利用しているインターネットやテレビ、ラジオといった情報技術は、手に持てないという点において腕木通信と共通であり、「情報技術の近代化はこの腕木通信の誕生をもって始まったと言える」と述べられています。
情報技術の歴史には3つの波が存在する
腕木通信にルーツをもつ情報技術の進歩が著しく進むのは、デジタル技術が台頭してきた頃だといいます。本書では、250年に及ぶ情報技術の歴史の進歩について、大きな3つの波が関係していると指摘されています。
1つ目の波は、19世紀に始まった情報技術の誕生。2つ目は、20世紀に発達したアナログ情報技術。そして、21世紀に突入した現在こそが、まさしく3つめの波に襲われている最中だというのです。
著者は、21世紀における第3波は、これまでの2つの波と比べると、あらゆる情報を「バイナリー・デジット」、略してビットで表すという点において異なると述べています。つまり、同じ情報技術という領域において継承している部分はあるものの、腕木通信など従来の通信技術とはまったく異なる特徴をもっているのです。
そして、本書ではこの第3波のデジタル技術について欠かすことができないコンピューターの誕生から発展までが詳細に説明されています。