前回はエンタープライズ企業におけるBtoBのPRの基礎、変遷、コロナによる主だった変化を説明しました。今回は、そもそもPRチームをどう編成するかを紹介します。PRを推進する上で重要となる5大経営資源「人、モノ、カネ、情報、時間」の中の人に焦点を当てます。
PRパーソンの育て方、「向き不向き」を補うトレーニング
PRにおける最も大切な資産は「人」です。どう集め、育て、全社のためにチーム運営したらよいでしょうか。
日本の大企業の場合は、広報部があり数年サイクルの人事異動で社内の別の部署から来た人が初めてPRの仕事に携わります。このため、共同ピーアールの広報の学校などで研修を受け、基礎知識や業務ノウハウを身に着けてPRパーソンとしての仕事を始めます。大手メーカーなどは国内だけで数十名以上の広報部員を抱え、数多くの媒体の報道対応にあたります。より小規模の企業では、広報がひとりで全社の窓口になったり、また総務や企画部門などの一部としてその他の経営支援業務を兼務することも少なくありません。
日本でBtoBのPR業務は、PR会社に外注せず自社で運営されることが多いのが特徴です。こうしたインハウスのPR担当者たちは、日本パブリックリレーションズ協会(PRSJ)などの団体やソーシャルメディアなどを通じた横のつながりによって社外と交流し、情報をアップデートしているようです。なお、毎日フルタイムでPRパーソンのマンパワーを必要としない業務量の企業では、週に3日ほど執務するフリーランス契約によって、経験者の力を借りるケースも増えているようです。外資系企業では多くの場合、グローバル展開する上で最適なPR運営するために、PR会社とパートナーシップを組みます。
外資系企業の場合、PRパーソンはまず英語が必須であることが多く見受けられます。そのため、まずPR会社で広報の基礎を身に着け、その間に英語を習得して、外資系企業のインハウスPRに転職するというキャリア構築もひとつの形です。シニアクラスになると、読み書きプレゼンテーションとすべてのコミュニケーションを滞りなく、そして日本の意見や主張を漏れなくかつ感じ良く伝えられる英語が必要となります。とはいえ、前回も述べた通りツールを駆使したりして自分のスタイルを確立すれば、ネイティブスピーカーでなくとも遜色ないと言えるでしょう。多様性が求められる今、ネイティブスピーカーでない声は競争力を高めると受け止められ、時と場所によってはむしろありがたがられます。そもそも、ひとりで賄えないことは、チームで補えばよいのです。
一般的なPR業務としては、報道の調査(モニタリング)と収集(クリッピング)、プレスリリースや報道参考資料などの情報収集、後述する社内調整、メディアへの伝達、掲載記事の報告書作成といった一連のプロジェクトを遂行していきます。ではこうしたPRの仕事をするために必要な資質とは何でしょうか。国内を中心に年間5,000件以上のPRプロジェクトを手掛けながら、世界100カ国以上、80社1,400名に上るPR会社のネットワークGlobalComでの活動を通して見えてくるPRパーソン像は「真面目」です。事実(ファクト)の正確性が求められるPRでは、緻密な調査と最新のテクノロジー知識、誤解を生まない表現と高い倫理意識に裏打ちされた情報伝達が必要です。これらに責任と喜びを感じながら、日常的、恒常的に継続していけるPRパーソンはいくつになっても成長し続けることができます。むしろ、年齢が上がるとともに判断力と交渉力が高まり、市場からの評価が上がるのもBtoBのPRパーソンの特長と言えるでしょう。
もうひとつ、コロナ禍の中でさらに重要視されるようになったPRパーソンの資質は「謙虚さ」です。謙虚さは、日本の美徳であるだけではなく、世界の美徳です。上述のとおり年を重ね堂々としたPRのプロになったとしても、人の心のひだに気を配る、DXやSDGsの動きを観察して傾聴する繊細さを、ポジティブに人に伝えてコミュニケーションの価値を生むためには、謙虚さが必要です。謙虚といっても卑下するのではなく、前向きな優しい表現で周りを鼓舞していくこと、つまり明るさが重要になります。なおこうしたヒューマンスキルは訓練によって身に着けることができるため、決して自信を失ったり悲観したりする必要はありません。