
サプライチェーン全体を標的としたサイバーリスクの深刻さが年々増している。事業継続とレピュテーション保護を確実にするためには、取引先や委託先を含めたセキュリティリスク管理が不可欠だ。日本企業もこの対策に乗り遅れれば、たちまち世界からの信用を失ってしまうだろう。今回は、直近の脅威動向や国内外での規制・対策のトレンド、企業に求められる意識と施策について、SecurityScorecardの有識者に話を伺った。同社は、世界中の企業に対し継続的なリスクモニタリングと、スコアリングなどを通じたセキュリティ状況の定量評価を提供するプロバイダーだ。
「日本での意識も劇的に変わりつつある」多くの企業がサプライヤー把握と可視化に苦戦
サプライチェーンを狙った攻撃が世界的に増加している。自社だけでなく、取引先や委託先を含めた広範なリスク管理が不可欠となる中、SecurityScorecardは外部からの非侵入型調査によって脆弱性を可視化し、リスクを定量評価するサービスを提供している。同社は、複数の観点からユーザーのセキュリティ状況を分析し、組織のリスクプロファイルを明らかにすることで、継続的なモニタリングと改善を支援している。
グローバルでは、サプライチェーンセキュリティの対策はどれほど進んでいるのだろうか。ラリー・スラッサー氏は「業界や国・地域によって成熟度には大きな差がある」としたうえで、現状を次のように述べた。
「SecurityScorecardは企業のリスク状況をスコアリングで評価していますが、セキュリティスコアは必ずしもサプライチェーン管理の成熟度を示すものではありません。たとえ大企業であっても、サードパーティリスク管理プログラムが未熟なケースも多く見られるのが現状です」(スラッサー氏)
ここでのスコアとは、あくまでも組織のサイバーハイジーンとセキュリティ行動に関する指標を示すものだという。なお、金融のような規制も多く高い水準が求められる業界は、サイバーハイジーンへの注力に加え、サプライチェーンリスク管理も比較的成熟しているとのことだ。特に欧州では「DORA(Digital Operational Resilience Act)」などの規制により、組織はサプライチェーンの可視化とサードパーティリスク管理への投資が求められている。また、米国ではNIST(米国立標準技術研究所)が提供するガイドラインが成熟度向上に寄与している。
日本市場については、「初めて日本を訪れた2年前は、サードパーティリスクやサイバーリスクへの対応が遅れていることに驚いた。しかし、この2年間で状況は劇的に変わった」とマシュー・マッケナ氏。多くの企業がサプライチェーン管理やサイバーセキュリティの変革について議論するようになってきていると話した。
ただし、日本だけに限らずサプライチェーン管理の課題は依然として大きいという。スラッサー氏によれば、グローバル全体で継続的に欠かさずモニタリングされているサプライヤーの割合はわずか2%。ほとんどの企業は、そもそも自社のサプライヤーを正確に把握する段階で苦戦しているようだ。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
サイバーセキュリティ、AI、データ関連技術やルールメイキング動向のほか、それらを活用した業務・ビジネスモデル変革に携わる方に向けた情報を発信します。
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