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富士通 柴崎辰彦の「一番わかりやすいDX講義」

JR東日本 松本氏に聞く:デザイン思考とリーンスタートアップによるJR東日本アプリの作り方

第20回【DX実践研究編】JR東日本のデジタル変革に向けた挑戦【後編】


 富士通で初めてのデジタル部門の創設やサービス開発に取り組んで来た著者の実践に基づくDX連載の第20回。著者は、富士通 デジタルビジネス推進室エグゼクティブディレクターの柴崎辰彦氏。シリーズの第3部となる「実践研究編」では、実際にデジタル変革に取り組む企業の取り組みをプロジェクトリーダーのインタビューを通してご紹介する。実践研究編3つ目の事例は、JR東日本の松本貴之氏にお話をお伺いした。

 前回(JR東日本 松本氏に聞く:デジタル変革の波に乗り「やりたいこと」でチャレンジする)では、DXというトレンドを掴み、好きなことと社会との接点を探し続けて来た松本さんのこれまでをご紹介しました。

 松本さんは、「JR東日本アプリ」のアプリ開発に関する一連のライフサイクルにおいて中心的役割を果たし、2014年3月に正式にリリースに漕ぎつけます。ダウンロード数は600万件を超えるサービスとなり、グッドデザイン賞(2014年)を皮切りにモバイル関係でMCPC award グランプリ/総務大臣賞(2015年)、日本鉄道サイバネティクス協議会 技術賞 最優秀賞(2015年)など、様々な賞を受賞します。

注目を集めたが利用者視点に欠けていた初期バージョン

JR東日本研究開発センターフロンティアサービス研究所 松本貴之氏
JR東日本研究開発センターフロンティアサービス研究所 松本貴之氏

 当時、「JR東日本アプリ」のミッションは、利用者に対してJR東日本が持つ様々なデータを活用して新たな情報サービスを提供することと、社内や関連企業に対してデジタルによる様々な情報サービスの可能性を示すことでした。展示会や実証実験である程度の感触はつかんでいましたが、とにかく「世の中に出してみよう」というのがアプリをリリースした当時の状況でした。

 リリースすると「こんな情報までJR東日本は提供できるのか」と興味を持っていただき、1年後の目標としていたDL数をわずか数日間で突破するほどの反響が得られました。

 しかし、当時のアプリは、まずは世に出すことを目指して開発を進めていたので、今でいうユーザエクスペリエンス(UX)やユーザーインターフェース(UI)が十分に検討されることなく次から次へと機能を盛り込んでいった結果、アプリの構造が複雑なものとなっていました。このため、利用者のアプリの体験としては、決して満足のいくものではありませんでした。

 「何度かUXやUIのデザイン手直しを試みましたが、根本的な改善に至りませんでした。また、通信が遅いとか、タップしてもなかなか画面が表示されないといった性能面の課題もありました」(松本氏)

IDEOとの出会い

 いかにして、乗客のナビゲーションに関するニーズに応える、より質の高い「移動体験」をデザインするか? 漠然と課題感を持ち続ける中できっかけを与えてくれたのは、ドイツ鉄道が出していた「DB Navigator」というアプリでした。JR東日本とドイツ鉄道は定期的に技術交流をおこなっており、その年の交流会の前にDB Navigatorがリニューアルされました。使い勝手が格段に向上していたため、詳しく話を聞いたところ、彼らが取り入れていた手法が「デザイン思考」でした。松本さんは、慶應大学留学時にその存在を知ってから10年、ついにデザイン思考を実践するチャンスが来たと思ったそうです。

 松本さんたちは、交流の一環でドイツにておこなわれたデザイン思考のワークショップに参加し、JR東日本アプリが抱える課題を解決できると確信しました。ドイツから帰国後、デザイン思考を用いたコンサルサービスを提供するIDEOの日本法人にアクセスします。

図2 ドイツ鉄道との技術交流
図2 ドイツ鉄道との技術交流

 松本さんは、「国内で協業する会社はいくつか候補がありましたが、『本当のデザイン思考を実践するためにもIDEOと組むべきだ』とメンバーを説得しました。予算確保や英文での契約手続などでいろんな方に苦労を掛けてしまいましたが、ここで妥協しなくて良かったと今でも思います」と振り返ります。

 「IDEO Tokyoのデザイナーからは、JR東日本アプリは、せっかく良い商品を並べているのに何屋だかわからないアプリですねと指摘されました」(松本氏)

 デザイン思考では、「問い」を立てることが重要であることは、連載の第12回目でも指摘しましたが、本プロジェクトでもはじめに「問い」を立てるところからスタートしたそうです。「誰のためのアプリか?」「アプリを通じてどんな体験を届けるのか?」「そのためには何をすべきか?」メンバーで共通認識を作るところからプロジェクトがはじまりました。

図3 IDEO Tokyoとのワークショップ
図3 IDEO Tokyoとのワークショップ

 しっかりとした「問い」を立てるには、ユーザーの行動や課題を知らなければいけません。そこで、いくつかのリサーチを実施したそうです。たとえば「エンパシーエクササイズ」と呼ばれる、実際にアプリを使って1日過ごしてみるリサーチでは、トイレを探したり、買い物をしたり、乗り換えに最適な車両に乗れるかを自分自身が試したりして検証したそうです。

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Pivotal Labsでリーンスタートアップを学ぶ

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この記事の著者

柴崎 辰彦(シバサキタツヒコ)

香川大学客員教授 富士通株式会社にてネットワーク、マーケティング、システムエンジニア、コンサル等、様々な部門にて“社線変更”を経験。富士通で初めてのデジタル部門の創設やサービス開発に取り組む。CRMビジネスの経験を踏まえ、サービスサイエンスの研究と検証を実践中。コミュニケーション創発サイト「あしたの...

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