イノベーションの普及とS字カーブ
一方、いくら新しい技術が出てきても、やはり普及には時間が掛かります。よくスマートフォンの普及スピードは、固定電話の普及に比較して格段に短いということが紹介されます。今では、すっかりスマートフォンは浸透しましたが、iPhoneが登場して、もう15年経つのです。つまり、イノベーションの普及には、S字カーブがあるということです。S字カーブは、技術の浸透を、時間軸でグラフ化したときに、右に傾いたSの時になることから、その名前がきています。新しいイノベーションは、最初はゆっくりと浸透して、急速に普及して、そして、踊り場に来て、ゆったりと普及する。幅は短くなっているのですが、やはりそのSを辿ります。同じような考え方に、ジェフリー・ムーア氏の「キャズム理論」があります。企業は、複数の製品でタイミングをすらしてS字カーブを作っていき、常に成長することが求められる。その意味で、Microsoft Officeは、改良や改善で、複数のS字カーブを同一製品で作っている、稀な例です。
では、今後、どのような技術が、イノベーションを牽引するのでしょうか。1つのヒントがあります。Webブラウザ「NCSA Mosaic」を開発した、現在は有名な投資家であるマーク・アンドリーセン氏が、「Find the smartest technologist in the company and make them CEO」(Mckinsey & Company)のインタビューで、注目する技術は“ABC”と述べています。Aは、AI(人工知能)、BはBioTech(バイオテクノロジー)、CはCrypto(暗号技術)の略です。
そのインタビューでは、アンドリーセン氏はABCを次のように述べています(筆者翻訳)。
AIでは、ディープラーニング、機械学習、オープンAIによる新しい画像生成の「GPT-3」(Generative Pre-trained Transformer 3)、「DALL·E」など素晴らしい技術があります。バイオテクノロジーは、ゲノミクス、そして今はmRNA革命と、生物学と工学の分野を融合させる革命が起きています。これは大きな山です。3つ目のCは暗号とWeb3です。分散型コンセンサス、インターネット上の信頼できるネットワークの構築、そしてそこから派生するすべてのものにまつわる革命です。
引用元:Mckinsey & Company「Find the smartest technologist in the company and make them CEO」(英語)
なお、OpenAI は、イーロン・マスク氏などの参加する人工知能を研究する非営利団体で、GPT-3やDALL・EはOpenAIが開発した言語モデルです。mRNAとは、メッセンジャーRNAは、遺伝子であるDNAから写し取った遺伝情報を担う分子だそうです。
なぜアンドリーセン氏がこのABCに注目するかというと、世界のトップクラスのエンジニア、科学者、経営者が、この3つの分野に押し寄せているからだそうです。英知が結集している最中ということでしょうか。もちろん、そのような将来の金の成る木には、マーク・アンドリーセン氏のような投資家かも群がり、資金が集まり、それでさらに技術が磨かれる研究が進みます。