SIerからユーザー企業の情シスにキャリアチェンジ
酒井真弓(以下、酒井):SIerからユーザー企業の情報システム部門に転職して、どんな発見がありましたか?
上村昌子(以下、上村):それはもうたくさんあります。一番大きな違いは、IT開発の流れです。SIer時代は、たとえばV字モデルのように標準的なシステム開発手法を踏襲してプロジェクトを進めるのが通例でした。一方、情報システム部では、いかにコストを抑えてやりたいことを実現するかが焦点となってきます。理想的な開発モデルから、問題ないと判断した部分を少し端折ったりして、いかに効率化するかを考えるようになりました。
また、SIer時代は、契約の範囲で期待通りのシステムを開発し、品質を担保し、自社にもきちんと利益をもたらすことを意識していました。今も、QCD(Quality、Cost、Delivery)は譲れませんが、自分もユーザーの一人として運用も含めて楽なものを選びたいと考えるようになりました。要は「使われないシステムにお金を使っちゃいけない」という気持ちが強くなりましたね。ITはあくまでも道具。最新技術が使われているとか、流行りの開発手法かどうかではなく、ちゃんと使えて効果が出るシステムであることが一番です。
酒井:そうしたギャップを埋めるのは大変でしたか?
上村:実はSIer時代、お客さまから「もう少し安くならないの?」と厳しい相談されることが多かったのです。あのときのお客さまの気持ちが身に沁みて分かるようになってきて、自分がどんどん情シスになっていくのを感じました。前職でお客さまにたくさん叱られていて良かったです(笑)。
酒井:SIerでの経験は、今どんなところで活きていますか?
上村:常にお客さまと向き合い、要件定義から運用開始後のトラブル対応まで幅広く経験していたことが、今すごく活きていると思います。
酒井:出会って数分ですが、上村さんは相手の心をつかむのがうまいですね。
上村:もしそうなら、SIer時代に教育係をしてくれた先輩の忍耐の賜物です(笑)。先輩は、私とお客さまの電話を隣で聞いていて、噛み合っていないことを察し、「今は要件を聞くことだけに集中しよう」とチャットをくれたり、「まずは『いつまでに回答します』に留め、社内で何をしなければならないのか相談しよう」と寄り添ってくれました。
着地を急ぐのではなく、まずは相手のニーズを正確につかむこと。これがベストの案だと思っていても、いきなり「これしか方法はありません」と言うのではなく、A案、B案、C案を提示して、金額や外せない要件などより詳しい話を引き出すこと。先輩からは、情シスとなった今に通じる大事なことを学びました。
入社時に「デート印」を渡され、紙文化に衝撃
上村:現在は、ワークフローの開発リーダーとして、要件定義から開発、運用、そして、ユーザーからの問い合わせの対応、改善といったすべての流れを担当しています。
酒井:ワークフローの導入に至った背景を教えてください。
上村:2018年、総労働時間の短縮と業務合理化を目指し、間接業務改革プロジェクトがスタートしました。私はちょうどその頃に入社したのですが、入社と同時に小学生のときに先生が押してくれたような氏名と日付が入った“デート印”を支給され、「これは一体何に使うの?」と驚いたのを覚えています。
当時の申請業務は、紙かExcel、Wordといった電子ファイルでのやりとりが一般的でした。一つの申請を完結させるには、まずはAさんに出し、戻ってきたらBさんに出し、また戻ってきたらCさんに……といったように、申請を完結させるまでずっと自分がハブとなってやりとりしてしまう人も少なくありませんでした。「ハンコを押したら次はDさんに回してください」って、ちょっと頼みにくいですもんね。
酒井:ワークフローの導入以前に、承認プロセスの見直しも必要ですよね。
上村:そうなんです。紙の申請書で運用していた頃は、「私はこの申請に目を通しました」という意味合いの押印もあったそうです。紙はある意味柔軟性が高く、そういったことができてしまうのですが、紙でやっていたことをそのまま電子化しても、本当の意味で間接業務の効率化にはつながりません。ユーザーの皆さんに「AさんとBさん、両方に承認をもらう必要はありますか?」など実態を聞かせていただきながら、それなら「共有者」ということで承認ルートには入れなくていいよねといったように、承認ルートをシンプルにしていきました。