2018年に経済産業省が公開した「DXレポート 〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開〜」は、日本企業に衝撃を与えた。複雑化・老朽化した既存システムが残存したままでは、国際競争への遅れやビジネスの停滞を招くと警鐘を鳴らしたのだ。これを機にシステム刷新や新システムの導入を検討している企業も多いだろう。しかしその新システムは、期待した成果を出せるものになっているだろうか。一村産業でシステム部 部長代理を務める辻村 昌之氏は、自社の新システム構築を交えつつ、成果の出るシステム構築のポイントを紹介した。
新システムが期待成果をあげられない2つの理由とは

日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、欧米企業の後塵を拝していると指摘されている。2022年9月にスイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した「世界デジタル競争力ランキング2022」によると、日本は過去最低の29位だった。
今やDXに無関心な企業はない。しかし、DXを実現する新システムが適切に構築されているかは別問題だ。辻村氏は「IT中小企業診断士の話や自分の肌感覚だが、新システムの70%は期待した成果を出していない。その要因は2つある」と指摘する。
1つ目は「DXを現場に求めてしまう」ことだ。ボトムアップで現場の声を反映させたシステムを構築すると、作業の効率化や利便性機能の実装といった「ITによる現場の問題解決」は達成するものの、それがDX化にはつながらないというのだ。辻村氏は「IT化とDX化は違う」としたうえで、以下のように説明する。
「社員がITに求めるのは作業負担の軽減と効率化である。一方、DX化は事業拡大やリスクマネジメントの徹底、社内の活性化などであり、システムを経営戦略に活かすことが目的だ。これは経営者からのトップダウンで実現する。成果を出すシステムを構築するには、経営者が(新システム構築に)積極的に関与し、『経営戦略を盛り込んだDX化』を実現することが重要だ」(同氏)。
一村産業がDXの成果を出すポイントとして心がけているのが、「経営者と共にDXを考える」ことだ。現在の経営課題を棚卸しして新システムに期待することを明確にし、改善のアプローチを検証する。そのうえでDX推進チームと経営者が話し合う時間を設けているという。
実際、一村産業では経営層を2日間“拘束”し、システム担当者やDXシステム導入を担う各ベンダー担当者を交えて「2025年にはどのようなシステムを実現したいか」を話し合った。こうした取組みを通じ、経営者に「従業員からの課題解決提案は経営の課題解決にはならない」ことを理解してもらった。その結果、経営層は「システム導入で何ができるのか」ではなく、「実現したい目的に即したシステムを導入する」という発想の転換ができたとのことだ。
さらに一村産業では「新システムのグランドデザインは全社員で合意する」ことを実践している。システムに何を求めているかを全社員にヒアリングし、そこにDXの観点を盛り込みながらシステムを構築する取組みだ。「実際にヒアリングをすると、一般社員と役員、管理部門と営業部門など、立場の違いで(システムに期待する)ギャップがある。こうした部分を解消し、全社員の合意の基に決めていくことが重要だ」(辻村氏)。
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鈴木恭子(スズキキョウコ)
ITジャーナリスト。
週刊誌記者などを経て、2001年IDGジャパンに入社しWindows Server World、Computerworldを担当。2013年6月にITジャーナリストとして独立した。主な専門分野はIoTとセキュリティ。当面の目標はOWSイベントで泳ぐこと。※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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