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SaaS企業を中心に『CRO』が浸透――新役職に期待高まる一方、必要スキルは複雑化

Anaplan CROのBill Schuh氏に現況を訊ねる


 原油価格の高騰や調達部材の価格上昇、さらに海外拠点の人件費上昇と円安、こうしたインフレーションが多くの企業業績、そして顧客の行動に影響を及ぼしている。こうした状況下では、需要と供給の“変化”をつなぐことが重要だ。こうした複雑な経営課題を紐解いていくのが『計画業務のDX』であり、『CRO』の存在だという。今回、AnaplanのCROであるBill Schuh(ビル・シュー)氏、および日本法人の社長執行役員である中田淳氏に話を伺った。

SaaS企業を中心に設置が進む『CRO』とは

 CROとは、『Chief Revenue Officer:最高収益責任者』のことだとシュー氏は切り出す。最近では、CROという役職が広く普及し始めているが、元々は“IT企業が作った役職”であるという。デジタル化が進み、SaaSが普及してきたことで新たなサービス形態での収益が多く見込まれるようになった。そこでCROという役職を設けることで、製品ライフサイクルを通じて『リカーリングレベニュー(繰延収益:サブスクリプションなど継続的な収益)』を最大化するというのが当初の狙いだ。

 その後、CROはIT企業以外のさまざまな業界に普及するように。その最大の理由は、「収益を管理するための、より包括的なアプローチにメリットを感じる企業が増えたため」とシュー氏は述べる。

Anaplan 最高収益責任者 Bill Schuh(ビル・シュー)氏
Anaplan 最高収益責任者 Bill Schuh(ビル・シュー)氏

 そのため現在のCROに求められる責任・担当範囲は広く、収益サイクルの管理をはじめマーケティング、セールス、カスタマーの成功を導くための施策に留まらず、ポストセールス、営業、サポート、あるいはパートナーシップやそのマネジメント。場合によっては、価格管理までカバーすることがある。これらを踏まえながら、自社および顧客にとってベストな結果を導くために活動するという。

 こうしたCROの職務が複雑化する背景には、世界中のあらゆる企業がデジタルを通じた顧客接点を増やそうとし、同時に次々と新しいビジネスモデルが誕生しているからだとした。つまり、依然として役割や意義は変化していくため、CROを設けること自体の重要性も高まり続けるということだ。

 とはいえ、CROの普及は始まったばかり。先行してCROを設けている企業に共通の特徴があるのかを尋ねると、米国では前述したようにSaaS企業を中心に増加傾向が見られることはもちろん、製造業などを中心にすそ野が広がっているとシュー氏。

 一方、日本企業を俯瞰してみると、CROの設置状況はさほど変わっていないようにも見受けられる。しかしながら、スタートアップを中心に、SansanやAI Inside、GMO TECHなど有名企業も採用を始めているという。

期待大で採用進む一方、求められる素質を満たす人材は……

 期待が大きく、採用も進んでいるCROであるが、具体的にはどのような資質や経験値が求められるのか。シュー氏は、大前提として「戦略策定に長けていることが必要」だと指摘する。

 企業は、さまざまなサービスや製品を抱えているが、販売経路やマーケティング、価格設定など、それぞれの「Go To Market戦略」は異なる。特にテック系企業においては、製品戦略とマッチしていることが重要視されており、製品戦略を理解するスキルが求められているという。

 このとき、スキルセットとして「顧客理解」の有無が重要になってくる。特に、SaaS企業のようにリカーリングレベニューを主とするビジネスモデルの場合には、顧客の成功を導く必要がある。口コミなどで成功体験談が広まると、よりサービスを継続してもらえるようになるだけでなく、客単価も上がっていき、ビジネスも拡大していく。

 「たとえば商談において、私たちAnaplanの調査データでは、85%のお客様が事前に製品やサービスを調べ上げていることがハッキリと示されています。既にお客様がしっかりと勉強しているわけですから、CROもお客様のことをよく理解して成功に導くためにサクセスストーリーを描けなければいけませんし、その資質が求められています」(シュー氏)

 そのためには、顧客企業だけでなく自社の理解も欠かせない。企業文化をはじめ、どのようにオペレーションや業務を回しているのか、顧客やパートナーとどう接しているのかなどを把握することに努めなければならないという。

 また、透明性高く業務にあたり、実行力はもちろん『データ志向』であることが最も重要な資質にあたるとシュー氏は言及する。つまり、CROはデータ分析に長けている必要があり、人材やリソース、チームの特徴を踏まえた(前述した自社の理解を)した上で、それら経営資源の最適配分と計画業務の策定ができなければならない。

 「データ志向という点において、ビジネスプランニングソフトウェアへの関心が高まっています。たとえば、私たちAnaplanもサービスを提供していますが、CROを設置している企業に利用いただいており、データ分析やビジネスプランニングなどの機能で迅速な意思決定を支援しています。つまり、先進的なCROは、商圏計画や適切な人材配置などにおいて顧客を成功に導くため、既にデータに基づいた適切な意思決定を行っているということです」(シュー氏)

 ここまでの話を振り返ってみると、CROには多種多様なスキルセットと資質が求められることがわかる。意外と思われるかもしれないが、CROのポジションに就くのは、元営業マンが多いという。これは、収益を確保するという点が最も重要視される役職のため、近いスキルを備えているという観点だ。もちろん、営業職だけでは身につかないデータ分析などのスキルも求められる。

 実際に、今回インタビューに応えてくれたシュー氏の前職は、Medalliaのグローバル インダストリー営業担当 EVPだ。Anaplanにおいては、CEOや経営層、幹部たちが時間をかけてスキルセットを評価した結果、CROに選定されたという。

次のページ
群雄割拠の「IBPソフトウェア」、Anaplanの方策とは

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この記事の著者

吉澤 亨史(ヨシザワ コウジ)

元自動車整備士。整備工場やガソリンスタンド所長などを経て、1996年にフリーランスライターとして独立。以後、雑誌やWebを中心に執筆活動を行う。パソコン、周辺機器、ソフトウェア、携帯電話、セキュリティ、エンタープライズ系など幅広い分野に対応。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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