TBMのフレームワークとは何か
── こうしたフレームワークによる方法論は、最初はとっつきにくい印象がありますが。
ユージン氏:いっきに、最後まで行う必要はありません。TBMのプロセスは、ジャーニーなのです。こうした方法と原則を適用していけば、いずれ大きな価値と成果を得ることができるはずです。
米国のCEOやCFO、CTOもこのTBMへの理解は大きく進んでいますし、日本でも急速に学習する人が増えています。
──IT部門と財務部門、ビジネス部門がITの投資価値を理解するための、共通言語が必要とのことですが、なかなか難しいのではないでしょうか。
ユージン氏:IT部門にはITコストをビジネス部門にとって妥当性のある形で配賦する必要があり、財務部門は資本支出(CAPEX)や運用経費(OPEX)の面からITコストを理解する必要があります。コンピュータ、ストレージ、ネットワーク、データベース、といった種類のITコストのカテゴリがありますが、このままでは非IT部門には理解を得られにくいでしょう。これらをビジネスの支出としてどのように配賦しビジネス価値を算定するかは、 ビジネスチームとしても関心があり、IT部門は経営側への説明責任が求められます。それを解決し、正しく意思決定をおこなうため共通言語を確立する方法論がTBMなのです。TBMとは、ITコスト削減のためだけではなく、正しく投資を行うことでビジネス価値を最大化するためのものです。
ITコストの「仕分け」と「最適化」を自動実行
──TBMを活用するためには、CEOやCFOもシステムやデータに関する深い理解が必要なのでしょうか?
ユージン氏:必ずしもそうではありません。CTO、CEO、CFOが共通認識の基に、ITのビジネス貢献度を理解すればよいのです。どんなアプリケーションが社内で、導入されているかを把握し、どれがビジネスにとって重要で重複や無駄が無いかを理解する。また、どれが資本支出(CAPEX)で、どれが運用支出(OPEX)に該当するかなども、TBMによって可視化し容易に判断できるようになります。Apptioでは、取得データをAIや機械学習モデルによって迅速にカテゴライズします。
──そのために収集するデータソースはどのようなものでしょうか?
ユージン氏:一般的に言えば、総勘定元帳データ、および経費システムを運ぶ会計データ、ERPやCRMといったものです。そうした各種のデータを取得して統合して活用します。そうすることで、ITコストのブラックボックス化を解消し、透明性を与え、企業内のすべての関係者に、ITの価値を明確にさせることができます。
Cloudwiry社買収の目的
──今回のCloudwiry社の買収の目的についてお話ください。
ユージン氏:ApptioはIT投資全体を管理するTBMの実践を支えるソリューションに加え、Cloudabilityというクラウドコスト管理に特化した製品を提供しています。今回のCloudwiryの買収は、クラウドコスト管理のソリューションをさらに進化させることが目的です。具体的には、クラウドコスト管理の自動化をより向上させる。これまでも、Cloudabilityは、クラウドコストの削減余地、例えばオーバーサイズになっているインスタンスはないか、リザーブドインスタンスなどのコスト削減施策をどのように活用すべきかなどについて、推奨と提言を行ってきました。
Cloudwiry は、コスト管理をさらに自動化させます。AWS、Azure、GCP などの主要なクラウドサービスに対して、購入方法の最適化やサイズの適正化などを行うことができます。結果的にクラウドサービスに支払うコストを最小化することにつながります。
──最後に、日本のIT部門に対してTBMに関するヒントをお話ください。
ユージン氏:TBM導入のジャーニーはどこからでもはじめられます。すでに富士通や資生堂などの大企業が導入を実践し大きな成果を上げています。日本市場の、導入のスピードと学習の意欲に驚いています。今後、日本の企業の声も、本社にフィードバックを行っていきたいと思います。
特にグローバルでIT戦略を展開する企業にとって、TBMは戦略を一段引き上げることが出来ると確信しています。
──ありがとうございました。
TBM ITファイナンスの方法論
成塚歩 著
出版社:翔泳社
発売日:2022年2月22日
価格:2,420円(税込)
本書について
この本は、「ITファイナンスの高度化」の方法論であり、フレームワークとしての「TBM(Technology Business Management)」の国内初めての解説書。 CIOや企業のIT導入やデジタル戦略の策定を行う担当者が、IT投資を投資効果や事業価値をどう高めるか、会計と経営の指標の中でどう考えるかの方法を解説します。