大人気店舗を支えるITシステム、長野で“ゼロから”はじめた内製化
自然豊かな長野県飯綱町に本店を構え、日本だけでなく世界にもファンを抱えるサンクゼール。ショッピングモールなどで久世福商店といった店舗を見かけた方も多いのではないか。そんな同社は、IT戦略やDX戦略が功を奏して事業拡大を続けており、これをリードしているのがサンクゼールで全社DX推進室 室長を務める宮本卓治氏だ。
同氏は、行政システムを開発するITベンダーでエンジニアとして、またマネージャーとしても経験を積んできた人物。2016年頃、IPOを目指すため、ITによる統制や業務プロセス改善が求められていたサンクゼールは、DX関連組織の前身である情報管理部を拡充・強化するタイミングに差し掛かっていた。当時について宮本氏は「ちょうどアジャイル開発といった最新の開発手法に興味を持っていた頃でした。設計書ベースではなく、実務のメンバーといっしょにお客様の期待に応えることができそうな点に魅力を感じ、思い切ってサンクゼールに飛び込みました」と振り返る。
現在サンクゼールでは、自社開発システムとSaaSを組み合わせて業務を遂行している。たとえば、契約書審査・管理などには「LegalForce」「LegalForceキャビネ」を利用しているという。同社経営サポート部 総務法務人事課 係長の伊藤祥氏は、「上場企業として個人情報管理やセキュリティ強化など注力しています。当社はフラットで風通しの良い文化が醸成されており、全社DX推進室をはじめ、どの部門とも気軽に声をかけあい連携しています」と語る。ITを活用することで事業が伸長している、まさにDX先進企業とも言える同社だが、起業当初から今のような企業文化があったわけではない。
サンクゼールは現在、サンクゼールと久世福商店をあわせて全国に150以上の店舗を運営しているが、情報管理部が設置されたのは2013年。当時は約30店舗を運営している状況にあった。店舗数拡大にともない、取り扱う商品点数も増えており、サプライチェーンから店舗管理まで、人手による業務負担が高まっていた。そうした課題を解決しようと、IT人材を集めることで情報管理部をゼロから発足させたのだ。
「情報管理部の発足当時、ERPやPOSシステムなどは外部サービスを使っていましたが、スムーズなシステム間連携が出来ておらず、出荷指示やレポートのためにスプレッドシートで集計する作業が発生するなど、従業員の負担が増していました」(宮本氏)
IT人材の積極採用に舵を切ったサンクゼールでは、自社開発システムによって業務の自動化・省力化を推進。この成功体験から、社内の業務システムの自社開発比率を高めていくことに。その初手として取り組んだものが“データ連携の効率化”であり、地道にデータベースを整理していくことで、出荷指示や分析レポートの自動化を実現している。
「サンクゼールには、早いときには会議中に議論をしながらプロトタイプを作り上げ、すぐに利用者のフィードバックをもらえるアジャイルな開発環境があります。当初は、圧倒的なスピード感と低コストで実現できたことに驚きました。前職での行政システムの作り方とは根本的に異なり、MVP(Minimum Viable Product:最小限のプロダクト)を育てていくことを基本的な考えとしています。思い描いたものをすぐに実現できる『アジリティ』と、素早く軌道修正できる『適応力』の2つが自社開発のメリットです」(宮本氏)
その後、購買管理や生産管理、在庫管理、店舗での販売管理、POSレジ、勤怠管理など、自社特有の機能が求められるシステムは、すべて自社開発システムに変えていると言うから驚きだ。