WalkMeは複数のサービスを利用する際のデジタルフリクションを解消する
デジタルアダプションプラットフォームは、導入したアプリケーションなどを容易に使えるようにして、その価値を引き出すためのツールだ。タイムリーな操作ガイドの提示はもちろん、ナビゲーション機能や見守り機能、ユーザー利用状況のモニタリングまでカバーしており、生産性の向上やさらなるデジタルツールの活用を促すこともできる。企業が利用するSaaSが急激に増加する中、デジタルアダプションプラットフォーム市場も大きく成長している。そして、この領域のプレイヤーとしてビジネスを拡大しているのが、WalkMeだ。
2011年にイスラエルで創業したWalkMe、その日本法人は2019年6月に設立されている。同年11月に日本法人最初のセールスエンジニアとして入社したのが、2023年2月に日本法人代表に就任した小野真裕氏だ。コロナ禍のオンライン/デジタル化の促進を追い風に、日本でのデジタルアダプションプラットフォーム市場も徐々に拡大。その状況下で2019年から同社は、着実に導入企業を増やしてきた。
さらなるビジネスの拡大を目指し、日本でのビジネス戦略を少々修正したと小野氏は言う。日本市場においても拡大は見せているが、デジタルアダプションプラットフォームの認知が隅々まで行き渡っているわけでない。そこで多くのSaaSを導入している大企業から着手するために、これまで幅広く展開してきた営業活動のターゲットを絞り、大手企業を中核とすることにしたのだ。
このビジネス戦略変更の方向性が見えたタイミングで、小野氏が新たなリーダーとして日本法人を牽引することとなった。「こうした戦略方針の変化は、昨年のうちにリーダー間では共有できていましたが、組織の隅々まで行き渡っていません。今年はチームとして一体感を持って取り組んできたいと考えています」と小野氏は話す。
WalkMeは、2022年度にグローバルで30%程の成長を達成。日本でも、ビジネスは堅調に推移しており、目標としていた数字は達成できているという。他地域では投資を絞るところもあるが、日本市場への期待値は高く引き続き継続される。好調の要因の1つには、大手企業をターゲットの中核とした方針の転換があり、実際にいくつかの大規模案件が契約に至っている。2023年以降も、この方針を基本的に継続する見込みだ。
この4年余りの間に、国内でもWalkMeは多数採用されてきた。その一方で、WalkMeは“小さく始めて大きく育てる”側面が強いサービスであり、現時点では部門ごとの採用がまだ多い。そこからいかに全社的な利用へ拡げるか、これも顧客の新規獲得と並行して取り組むことになる。「既にWalkMeを導入している企業では、全社的に使ってもらうステージへと舵を切っています。そのためには顧客組織の中にCoE(Center of Excellence)を作って取り組むことが有効であり、よりWalkMeの価値が発揮できます」と小野氏。SaaSなどのソフトウェアは導入しただけでは、なかなか価値を引き出せない。利用を促進することで、初めてユーザーエクスペリエンスの向上につながる。CoEを組織して取り組んでいる企業は、そのための改善サイクルを上手く回せていると述べる。
顧客のもとにCoEを置き、ユーザーエクスペリエンス改善のサイクルを回す。そのためにWalkMeでは今後、カスタマーサクセスマネージャーに加え、“バリューコンサルタント”を戦略的に配置して取り組むとする。「顧客のビジョンにあわせてコンサルタントがサポートし、CoEの体制を構築して回せるようにすることを1つのゴールとします」とも話す。そのためには、情報システム部門だけでなくCIOやCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)などにアプローチする必要があり、そのための営業体制も強化していく。
実際のコンサルティングの部分においては、アクセンチュアなどのグローバル・システム・インテグレーターなどのパートナーと一緒に取り組むことになる。日本では、アビームなど日本市場特有のニーズに強みを持つパートナーとも積極的に協業を深めるという。
企業はDXを進めようとしているが、なかなか上手くいっていない現状がある。その1つの理由が複数のSaaSなどを利用する際に発生する「デジタルフリクション(デジタルの摩擦)」だと小野氏は指摘する。複数のサービスを跨がって利用するような場合に、この摩擦は大きくなる。そして、この摩擦を解消する役割をWalkMeが担う。
複数のシステムやサービスを使いやすくしたいとき、ITからのアプローチならば、APIなどを使ったサービス連携などを思い浮かべることが多いだろう。「APIで連携の仕組みを構築することは“密結合”の状態だと言えます。それに対してWalkMeでは、API連携を用意しつつも“疎結合”となるアプローチで解決する方針が基本です」と小野氏。同社ではシステムが複数ある場合には、それらの上に薄い“アダプションレイヤー”と呼ばれるアプリケーション層を設ける。このWalkMeによるアダプションレイヤーを介して連携することで、ビジネス環境に変化があった場合にもフレキシブルに対応できる。密結合と疎結合のどちらが良いかではなく、両方の選択肢を持てることがWalkMeの強みでもあるという。