日本企業の競争力低下を、IT 活用度の低さに帰属させる人は多い。しかし、コンサルタントとして多くの現場に立ち合ってきた株式会社ローランドベルガー会長の遠藤功氏は、IT こそ時には毒となる劇薬であり、誤ったIT の導入が競争力の源泉である「現場力」を毀損していると指摘する。 なぜ、企業の活性剤とされるITが負の影響をもたらしているのか。日本におけるITの功罪について伺いながら、今後のIT活用の在り方をご提言いただいた。
IT 導入による現場軽視が日本企業の競争力低下を招く
― 長期化する経済不況のなか、日本企業の競争力の低下が懸念されています。リーマンショックなどの外的要因もさることながら、打開策の1つとして期待されているITによる業務改革が思うように成果を上げられていないことがあるようです。

そうでしょうね。ただITを導入するだけで成果が上がるなら誰も苦労はしません。むしろ、効果が上がらないだけならまだいいほうで、IT自体が害をもたらしている場合が多いのではないでしょうか。
ここ15 年ほど様々な技術が登場し、その都度ITは業務改革の救世主といわんばかりの扱われ方をされてきました。ITを導入して効果がなければ「使い方が間違っているのではないか」と現場が責められていたほどです。
しかし、本当にそうでしょうか。ITは使い方を間違えば企業の存続に影響するほどの打撃を与える「劇薬」なのです。
私は多くの現場がITによって毀損される状況を数多く見てきました。象徴的な例としてCADが挙げられます。CAD の導入によって、設計者は現場や現物を十分に見ることなく机に向かって設計するようになりました。
そうしてできた設計図の品質は目も当てられないものですが、当人はできたつもりになってしまう。誰も「CADは使い方次第で便利にもなるし、現場の設計力を損ねる可能性があります」と忠告する人がいなかったわけです。
こうした事例はSFA( Sales Force Automation)、SCM( Supply Chain Management)、SNS( Social NetworkingService)でも枚挙にいとまがありません。ITの導入によって、客先に行かない営業担当者、現物の在庫を見ない仕入れ担当者が量産されていきました。
日本の現場力は、現場における人間の創意工夫や問題解決力そのものです。しかし、安易なITの導入が現場にいるべき人間を現場から遠ざけ、考える力を奪ってしまった。さらに、経営者にも現場から離れていてもデータで判断できるとITはいいます。しかし、データだけで未来が見えるわけがありません。
データは過去であり、“今”を知るには現場に足を運ぶしかないのです。このように、これまで日本が重視してきた「三現主義」の「現場」「現物」「現実」が軽んじられ、結果として日本企業の競争力が急速に低下しつつある。日本企業の崩壊はここに始まったといって過言ではありません。
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ITイニシアティブ編集部(ITイニシアティブヘンシュウブ)
経営・ビジネス・ITをつなぐ実践情報誌「IT Initiative」編集部
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