アプリケーション調達のための「ペースレイヤーモデル」とは?
──アプリケーション調達に関して、基調講演で紹介されていたペースレイヤーモデルが印象的でした。基本的な考え方から紹介していただけますか。
このモデルはガートナーが10年以上前に提唱したものですが、今日でも同じように適用できると思います。元々の考え方は、1994年に米国の作家スチュアート・ブランド氏が自著『How Buildings Learn: What Happens After They’re Built』で、建築物を表現するために使った概念に由来しています。新しい建物を建てた後、基礎になる土台やその建物の柱の位置を変えることはできませんが、新しいスタイルを求めて、部屋のカーペットやカーテンのような内装、生活に欠かせない家電製品を買い替えることはよくあることです。アプリケーションの調達と管理でも同じことが言えます。そこからペースレイヤーのアイデアが生まれました。
モデルの目的は、IT業界でシステムに携わる人たちが、変化の必要性やスピードに基づき、システムを評価する方法を理解してもらうことにあります。その構成要素として、まず一番下に「Systems of Record(記録のためのシステム)」があります。該当するアプリケーションには、ERPやCRMなどがあります。進化はゆっくりですが、それは変更にコストがかかるからです。また、規制や法制度の影響を受けることが多いことも関係しています。その上に位置するのが「System of Differentiation(差別化のためのシステム)」、一番上が「System of Innovation(革新のためのシステム)」です。
ペースレイヤーモデルはアプリケーション調達における「作るか、買うか」の意思決定にも有用です。少ないエンジニアリソースを最も有効に活用できる分野はどこかと考えると、System of Recordにはならない。今日、SaaSの人気が高いのは、SaaSがSystem of Recordを代行してくれるからです。だから、IT部門はSystem of InnovationやSystem of Differentiationのユースケースの探索に力を入れるべきなのです。
──開発方針を示すという意味では、ガートナーは以前からバイモーダルを提唱してきました。ペースレイヤーとバイモーダルの考え方には関連性があるのでしょうか。
密接に関係しています。バイモーダルは、複数のレイヤーに対して同じアプローチは適用できないと示す考え方です。システムによっては、堅実なウォーターフォールアプローチが向いているものもあれば、イノベーションのためにより俊敏なアジャイルアプローチが向いているものもある。モード1とモード2を使い分けることの必要性を訴えたのがバイモーダルです。モード1にアジャイルを適用しようとしてうまくいかない。逆にモード2にウォーターフォールを適用しようとしてうまくいかない。バイモーダルは、それぞれに適したアプローチは異なると示しました。