「日本のDXが遅れている」との調査は鵜呑みにできない?
「日本のDXが遅れている」という認識は一般的となっているが、その背景を語ることができる者は少ない。DXの遅れを単に非難するのではなく、現状を理解し、個々人が意識を持ち、それを具体的な行動に結びつけることが肝要である。DXの重要性を認めつつも、推進するには地道な作業が必要であるということも忘れてはならない。
対談のテーマである『日本はデジタル先進国になれるのか?』は、牧島氏がデジタル庁の取り組みや日本のデジタル化の状況、将来展望を記した著書のタイトルだ。また、小巻氏はサンリオピューロランドの館長として、低迷していた来場者数をV字回復させた立役者として知られる。対談は、秋田県湯沢市 デジタル変革アドバイザーも務めるSansanの柿崎氏がモデレーターとなり、DXの先頭を走る日本の行政と民間のサービス提供者の取り組みから、DXの現状と未来への提言を得るものとなった。
柿崎氏は冒頭、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した「世界デジタル競争力ランキング2022」において日本は63ヵ国・地域のうち29位と低かったことを示し、こうした調査が報道されることによって、日本がデジタル先進国でないという印象が持たれているのではと指摘する。
これに対して牧島氏は、IMDランキングは、客観的指標と主観的指標によって順位が決まるとし、より客観的なデータとともに、経営者へのアンケート調査が主要な役割を果たすことを説明。アンケートでは、デジタル化の進捗やグローバル人材の活躍、働き方改革の進展などについて尋ねられるが自己評価が低く、積極的な進展を認めにくい場合も多いため、これがランキング低下の一因となっていることを明かした。
そして「自己評価の問題と並行して、各企業や経済界がランキングを意識し、自身で積極的な改善を進めることが重要。DXの推進はデジタル庁や行政だけの役割ではなく、すべての関係者が協力し、全員がプレーヤーとなるべきです」と語る。
小巻氏も、「DXというと、何か見えない“お化け”のようなものをどんどん突き付けられる。何をもってして『できている』と言っていいのかがちょっとわかりにくいですね」とし、アンケートに対し「デジタル化が進んでいる」と自信をもって答えることは難しいと指摘する。問いの形式が「全体的なDXの進行状況」ではなく、組織における「具体的な業務のデジタル化の程度」や「デジタル化が必要な部分」に焦点を当てていれば、具体的な評価が得られるとの考えを示す。それが自己評価の向上につながり、結果的にランキングも上がる可能性があるというのだ。
ダイバーシティを体現しているデジタル庁とサンリオ、その理由とは
柿崎氏は、DXのリーダーが集まるイベントの顔ぶれについて、海外では若者や女性が参加しているのと比べ、日本では自分が一番若く、ベテランの男性が多い傾向にあるとの見解を示した。一方、デジタル庁では官民から多様なメンバーが集まり、ダイバーシティが実現した組織となっているとし、その組織づくりの方法について尋ねる。
牧島氏はデジタル庁の組織モデルについて、企業が兼業や副業の人材を活用し、リモートワークを普及させようとする際の参考になるとし「3分の1が民間人材であり、非常勤の人も含まれています。行政官としてキャリアを積み上げてきた人々とは異なる背景を持つ人々が混在している。これを東洋と西洋の文化が融合するイスタンブールのようだと言われました。だからこそ、新たなイノベーションを生み出せると考えています。ゼロから作った組織だからこそできたのだと思います」と話す。
サンリオエンターテイメントやサンリオピューロランドでは女性が活躍しているが、小巻氏は、特色はそれだけでなく強烈なインパクトのある多様なバックグラウンドやスキル、趣味嗜好を持つ人々が活躍していることだと語る。「企業風土として、均一性というよりは良い意味でバラバラな人たちが活躍しています。一方で尖った人材はコミュニケーションがうまくいかないなど課題もありますが、尖った部分をもったまま仕事を進めることはできるため、根気強い人材育成が重要です」(小巻氏)