公共事業の削減に、原材料高騰や不動産市場の低迷などが加わり、昨今の建設業界には厳しい逆風が吹いている。そんな中、大幅なIT コストの削減に成功したのが、日本のスーパーゼネコンの一角を占める大成建設だ。同社は2001 年から情報システムの全面刷新を敢行し、システム子会社の見直しにも着手。最終的にはIT コストの5 割の削減に成功した。
大成建設のCIO(最高情報責任者)として長らく辣腕を振るい、現在、大成ロテック株式会社の常勤監査役を勤める木内里美氏に、コスト削減の経緯や情報システム部門の果たす役割について伺った。(聞き手:産業技術大学院大学教授 南波幸雄氏)
PC 黎明期に実現したネットワーク情報端末への夢
― 木内さんは元々、情報システムがご専門ではなかったということですが。
元々は土木の技術屋で、大学時代は土木工学を学んでいました。大成建設に入社した当時の業務は海洋・港湾の構造設計といった分野でしたので、技術計算などのためFORTRANなどには早くから親しんでいました。
その後、1990年に社員一人ひとりが情報端末を持ち、コミュニケーション・ベースの仕事をするといったコンピュータの新しい使い方に関する議論が土木設計部門内で始まりました。
当時、パソコンはまだ使い物にならない時代でしたし、ネットワークも構築できなかった。そこで最初は、UNIX ベースでネットワークが作れないかということになったのですが、コスト的にどうしても合わない。そこで出てきたアイデアがアップル社のMacintoshの利用でした。
そこですぐに、情報先進国だった米国まで視察に飛んでいったのです。すでに、海運会社が船の運行管理などの処理をMacでやっているのを目の当たりにして、非常に衝撃を受けたことを覚えています。
実際、土木設計部にMacが導入されると、200人全員の目からウロコが落ちたんです。電子メールが飛び交い、色々なツールも自ら探してくる。スケジューラなどはローカライズする許可をもらって使い勝手のよいものを自由に仕上げる。ネットワークの作り込みの作業など、みんな土日返上で嬉々としてやっていましたね。
― 当時から大成建設には、情報システム部門が別にあったわけですよね。
もちろんそうです。本社と支店の間にはLANが敷設してあって、情報システム部門には「Macを使いたい。ネットワークを使わせてください」とお伺いを立てに行きました。すると、当時の情報システム部門は「パソコンレベルに興味はない」と、ハブから先は好きなように使っていいよということになった。
その後、土木設計の人間は全国の支店に散らばっていますから、必然的にネットワークも広がっていき、設計の周辺の人間まで巻き込んでいきました。最終的には三千数百台のMacが会社を席巻するようになりました。