自社にとって最適な働き方を判断する4つの視点
この講演では、ポールマン氏が「柔軟に働けるようにする」という立場、セバーソン氏が「オフィスへ出社するよう義務付ける」という立場で議論を進めた。2人のアナリストは、最初に図1に示すようなクロスロードと呼ばれるパズルのボードの仕組みを説明した。このゲームのボードは正方形でその対角線に沿って、4つの溝が刻まれている。それぞれの溝には小さな金属ビーズが入っていて、ボードを傾け、手を使わずに4つのビーズ全てを中央に集めるパズルである。やってみると、2つを中央に集めるのは簡単にできても、残りの2つは難しい。
企業がリモートワークかオフィス回帰かに悩むのは、このパズルと同じだと2人は話す。4つの角はそれぞれが「従業員の柔軟性」「設備と文化」「勤務地ベースの人材」「従業員の平等」を表していて、要素の2つを選ぶとなると4つのパターンがある。2人は4つのユースケースを例にそれぞれのパターンを紹介した。
まず、1つ目のパターンが「従業員の柔軟性」「勤務地ベースの人材」の価値観を重視するハイテク・ソフトウェアの企業である。これらの企業の幹部の典型的なコメントが「我々のオフィスを、単なるオフィスとは呼ばないでほしい」というものだ。この業態の企業ではポールマン氏が紹介するように、「従業員の生産性は在宅勤務で飛躍的に向上している」「生産性を下げる要因は創造性の欠如である」「コスト削減のためにスペースを最適化する必要がある」など、リモートワーク推進派の意見が主流だろう。
これに対して、セバーソン氏はスタンフォード大学の調査結果を引用し、2020年末に「自宅の方がオフィスよりも生産性が高い」とした回答は1割に満たなかったと反論する。また、夜間や週末まで働くことが増え、長時間労働が常態化した環境では創造性を発揮できないと指摘する。さらに、所有している土地や建物はすぐに処分できないし、賃貸でも契約期間内の解約はできない。そもそも容易に換金できないから不動産なのだという事実を改めて突き付けた。