なぜコストと労力をかけてまで基幹システムを内製したのか
マネックス証券は、株や投資信託など幅広い商品を取り扱うネット証券会社。手数料の安さや少額投資ができることから初心者に親しみやすく、資産管理ツールや投資情報提供が充実しているところが人気を呼び、口座開設数は216万口座を突破している。1999年に前身となるマネックスが設立され、日興ビーンズ証券との統合を経て、2005年から現在のマネックス証券となったことを憶えている方も少なくないだろう。
そのマネックス証券が元々使用していたのは、SMBC日興證券グループの日興システムソリューションズ(NKSOL)が提供するシステム(ASPサービス)。今回話を伺ったマネックス証券のCIOでもある後藤浩氏は入社が日興證券で、このNKSOLに出向したこともある人物だ。
金融系企業であればシステム子会社が開発したシステムを使うことはよくある。しかし、そこから脱却して内製システムへと移行するケースは少ない。同社が基幹システムの移行準備を始めたのは2009年頃まで遡る。
そもそも、なぜ内製システムに移行しようと考えたのか。後藤氏は「自由度の高さ」を挙げる。業務をよく知る企業が開発したとしても、他社システムである限り「ここまでしかできない」「この環境やこの条件でないとできない」など何らかの制約を受けてしまう。自社システムとして構築してしまえば、経営方針や業務に沿ったシステムを実現できるなど、制約から解放されるメリットは大きい。たとえば、直近では2024年から「新NISA」制度が開始となるが、こうした制度変更時に独自性を出すなどの柔軟さも生まれるだろう。
ただし、コストや労力は格段に増える。企画や設計、開発など、内製する以上はすべて自社でやらなくてはならない。後藤氏も「大変になる」ことは重々覚悟した上での船出だったと振り返る。コストや労力の負担を考慮してもなお、既存システムに依存することなく自由度を高められることで得られるメリットは大きいと判断したからだ。
まず、後藤氏が行ったことは人を集めること。システム部門などから集めたメンバーに加えて、SCSKからの出向メンバーによる混成チームを結成した。最初に着手したのは、株と投資信託のシステム。これをパイロット導入したのが2011年だった。
このとき幸運にも完全にゼロからのスクラッチ開発ではなく、当時の開発メンバーに加わっていたSCSKがかつて持っていた証券システム「EST REX(エストレックス)」をベースに開発を進めることができたという。もちろん、「EST REX」がマネックス証券の業務要件を満たすことは難しくも、内製化においてベースとなるシステムの存在があったことは大きい。
スモールスタートで成果を出したことを皮切りに、総合的なオンライン証券サービスに対応できる基幹システムの開発に乗り出していく。名前は「GALAXY」、これまで使用していたシステムを参考にしつつ、設計を起こしていくことから始めた。
しかし、システムリプレイスに向けて開発を進めていく中、2016年時点でコストは当初見積額の倍に。それでも前に進めたことについて、後藤氏は「経営がしっかり『やるんだ』という意思を持っているからです。もし、方針がぐらぐらしていたなら、プロジェクトは完遂できなかったでしょうね」と振り返る。
結果的に、従前のNKSOLのシステムからGALAXYに切り替えできたのが2017年。開発期間中、最も重荷となっていたのはNKSOLの保守運用と並行してGALAXYを開発しなくてはならないことだった。ここは切り替えならではの負担となる。GALAXY開発のためにNKSOLでのシステム開発を抑えなければならず、新サービスが提供できない場面もあった。
そのため、2017年にGALAXYをリリースした段階では、競合他社に比べると機能が充実しているとは言い切れない状態に。加えてリリース直後には大小いろいろなトラブルにも見舞われた。リリース後しばらくは安定稼働と機能充実、加えて内製化体制の整備に取り組むなど土台作りに専念した時期が続くことになる。