佐藤体制のトヨタが注力する3つの戦略テーマ
最近のDXをテーマに掲げたイベントの多くがこぞって取り上げるのは、しばしば華やかな成功事例である。しかし、講演の冒頭で岡村氏は、「未来に向けての足場固めをしている側面と、膨大なレガシーと格闘している側面の両方がある。苦戦しているところも含めて、トヨタのDXのありのままの姿を紹介したい」と語った。
世界の自動車業界は変革期にある。2018年のCESで、豊田章男氏は「トヨタを、クルマ会社を超え、人々の様々な移動を助ける会社、モビリティカンパニーへと変革させることを決意した」と語った。実際、CASE(Connected:コネクティッド、Autonomous/Automated:自動化、Shared:シェアリング、Electric:電動化)やMaaS(Mobile as a Service)のキーワードを聞く機会が増えている。どちらも「100年に一度」と呼ばれる自動車業界を取り巻く環境変化を象徴する言葉と言えるだろう。
トヨタもさらに変わろうとしている。2023年4月、約14年間社長を務めた豊田章男氏が取締役会長に昇格、社長は佐藤恒治氏に交代した。佐藤氏が率いる新経営体制では「継承と進化」をテーマに、豊田会長が社長在任中に掲げたモビリティカンパニーへのシフトを引き継いだ。その佐藤体制における注力分野の3つを岡村氏は紹介した。
電動化
世界の自動車メーカーにとって、2050年に向けての脱炭素化は必須目標である。しかし、実現に向けての選択肢が複数ある中、現時点でどれが正解なのかを明確にすることは難しい。そこでトヨタはマルチパスウェイ(全方位)戦略を採用した。BEV(Battery Electric Vehicle)、PHEV(Plug-in Hybrid Vehicle)、FCEV(Fuel Cell Electric Vehicle)、HEV(Hybrid Electric Vehicle)など、グローバルカンパニーとして、世界各国のエネルギー事情に適した環境車両を提供していく計画を明らかにしている。
知能化
自動運転の時代が来ると、クルマを支えるソフトウェアの重要性が高まる。トヨタが独自に開発を進めるソフトウェア基盤Areneで目指すのは、「クルマを買ってもらったことをゴールにするのではなく、ソフトウェアのアップデートの度にそのクルマを進化させ、“あなただけの愛車”に仕立ててもらう」ことだ。
多様化
トヨタの年間車両販売台数は約1,000万台を超える。地域ごと、世代ごとに異なる顧客ニーズに対応するため、商品やサービスの提供では様々な選択肢を用意する。また、福祉車両の開発で培ってきたノウハウも活かし、モビリティ多様化への取り組みも進めている。目指しているのは「世界一ではなく、“町いちばん”の会社」だ。