原点は「空間へのこだわり」:勤怠管理システムからITへのステップ
植田さんは住居やインテリアなどに興味があったため、生活空間について学ぶことができる短大の家政学部に進んだ。就職先として考えたのは、ハウスメーカーだった。イトーキは候補ではなかったが「人が主役の環境づくり」とのキャッチフレーズに惹かれた。住む家をと思っていたが、空間へとより広く捉えるのも面白そうだと考えた。
当時、イトーキでは短大卒業者を一般職として採用していた。多くの一般職が配属となるのは営業事務だった。「配属発表の日は実は熱があったのですが、この日は逃せないと無理して出社しました。配属先は営業本部から発表され、そこでは名前が呼ばれませんでした。続く管理部門の発表でも呼ばれず、最後の人事部でやっと呼ばれたのです。営業事務だと思い込んでおり、熱もあったので、誰が人事なのかと思うくらい、実感が湧きませんでした」と振り返る。
人事への配属は植田さん1人だけ。他の新卒同期社員とは、働くビルも違い不安もあった。とはいえ、周りの先輩社員がフォローしてくれ徐々に仕事には慣れていく。そして人事の仕事は、自分に合っていたのではとも思うようになる。人事は文字通り“ひとごと”であり、人に関わる仕事だ。植田さんは人に興味があり「人のために何か貢献して感謝されたいなどの気持ちが強いところがあり、そこを見られた結果の配属だったのかなと思いました」とも言う。
人事部門で与えられる業務は、他には担当している人がおらず1人でこなさなければならないものも多い。「他の人たちとは違う仕事ができるのは、自分にとっては仕事の楽しさやモチベーションにもなりました」と言い、かなり集中して人事の仕事に取り組む日々が続く。入社して2年目の頃、勤務管理の仕組みを刷新する話が持ち上がる。以前はOCR用紙を用いた、旧態依然とした管理の仕組みだった。社員が毎日OCR用紙に出勤、退勤時間を記入し、人事部門で収集し管理する。毎月約1500人分のOCR用紙を読み取り集計するが、上手くいかないものは目視で確認し手作業で打ち込み直す。この手間のかかる仕組みを廃止し、内製で新たな勤務管理システムを作ることとなったのだ。
勤務管理システムの刷新プロジェクトに、IT部門の担当者と植田さんの上司、そして植田さんが参加する。PCを業務で触る程度で、ITシステムのスキルがあったわけではない。人事として勤怠の情報をどう管理したいのか、勤怠システムを使うユーザーが操作しやすいためにはどうすれば良いか。ユーザー側からの意見を言うことで、より良いシステムになるよう努力をすることとなる。
新しい仕組みの使い勝手には、かなり要望を出した。さらに法規にも対応する必要があり、それにもしっかり取り組んだ。「法律への対応などは、自分のきっちりやる性格で良いものにできたと思います」と振り返る。プロジェクトは順調に進み、勤怠管理システムは無事に導入される。「1画面で必要な処理が全てでき、使いやすいものができました」と植田さん。このシステムの評判は上々で、外販しないのかと声が上がるほどだった。
振り返ればこの経験が、仕事への取り組み姿勢や自身の性格なども、少し変わるきっかけだった。「それまではどちらかと言えば引っ込み思案で、あまり前に出るタイプではありませんでした。それでは駄目でしっかり意見を言わなければとなりました」と言う。システム刷新という新しい経験が、意見をしっかり伝え自分を出すという変化を生んだ。この変化は、後のDXへのチャレンジにもつながる。