AWSの技術責任者がCISOに転身したワケ
松久氏がマネーフォワードに入社したのは2023年3月1日のことだ。
「2月末まではAWS(アマゾン ウェブ サービス ジャパン)に勤務していました。金融業の技術責任者として、銀行など金融機関にクラウド利用を働きかけていました。AWSで仕事を始めた頃は、パブリッククラウドを採用する日本の金融機関はゼロだった頃です。クラウドの信用度をアピールしていきました」(松久氏)
その成果が実り、2017年に大手金融機関がAWSを採用。現在では金融機関がパブリッククラウドを利用することは決して珍しいことではないという。
「AWSには7年弱在籍しました。そろそろ次のステージに行くことを考え始めたとき、これまでとは違う環境で働きたいと考えるようになりました。たとえばAWSの競合となるパブリッククラウドを提供する会社に転職すれば、それまでにやって来たことと同じ仕事をすることになるでしょう。AWSの前はシステムインテグレーションを行う企業で勤務していたので、AWS時代を含めずっと、『お客様のシステムを作る仕事』をしてきたことになります。自分たちのプロダクトを作る、事業会社側に回りたいと考えるようになりました」(松久氏)
プロダクトを作れることに興味を持ち、事業拡大にともない新たな人材を探していたマネーフォワードの求人面接を受けることになった。実は松久氏は家計簿・資産管理を行う「マネーフォワード ME」を利用してきたユーザーでもあり、同社には親しみを感じていたと話す。
「面接といってもカジュアルなものでしたが、最初はサービスの開発を管掌する『カンパニーCTO』を探しているということでお話をしたんです。色々と話をしていく中で、実はCISOも探しているのだが、CISOとして働いてもらうのはどうだろう? と提案を受けました」(松久氏)
松久氏はセキュリティの専門職として働いてきたわけではない。それでも、AWS時代には金融業担当としてセキュリティ対策に取り組んできた。さらに、金融業担当だっただけに、金融機関が求めるセキュリティ基準であるFISC安全対策基準も熟知。これはFintechプロダクトだけでなく、金融機関との連携を進めるマネーフォワードが求める人材に合致していた。
それに松久氏はかねてより、日本の金融機関がAWSのようなパブリッククラウドを使ってサービスを構築する際、マネーフォワードであれば金融機関とも協業していくことができるのではないか? と考えていたのだという。
「大手金融機関であればAWSを使い自分たち自身でサービスを構築していくことができるでしょう。しかし、情報システム部門のスタッフが限られている中規模以下の金融機関では、自分たちで新サービスを作るにはAWSは難しすぎるとも感じていました。むしろ、マネーフォワードのようなベンダーがSaaS型のプロダクトを提供し、それをベースとしてサービスを作る方がいいのではないかと。マネーフォワードに転職することで、AWSとは違った形で日本の金融機関に役立てることもあるのではないかとも考えたのです」(松久氏)
マネーフォワードから必要とされていることを感じた上に、金融業にも貢献できる仕事ができると考えたことで、松久氏は転職を決意する要因となった。