SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けに、EnterpriseZine Day、Security Online Day、DataTechという、3つのイベントを開催しております。それぞれ編集部独自の切り口で、業界トレンドや最新事例を網羅。最新の動向を知ることができる場として、好評を得ています。

最新イベントはこちら!

Data Tech 2024

2024年11月21日(木)オンライン開催

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けの講座「EnterpriseZine Academy」や、すべてのITパーソンに向けた「新エバンジェリスト養成講座」などの講座を企画しています。EnterpriseZine編集部ならではの切り口・企画・講師セレクトで、明日を担うIT人材の育成をミッションに展開しております。

お申し込み受付中!

EnterpriseZine(エンタープライズジン)

EnterpriseZine編集部が最旬ITトピックの深層に迫る。ここでしか読めない、エンタープライズITの最新トピックをお届けします。

『EnterpriseZine Press』

2024年秋号(EnterpriseZine Press 2024 Autumn)特集「生成AI時代に考える“真のDX人材育成”──『スキル策定』『実践』2つの観点で紐解く」

EnterpriseZine Press

ガートナーに聞くベンダーからの値上げ要求への対応──「ライセンス棚卸し」と「半年前からの交渉」が鍵

ガートナー ジャパン 海老名剛氏インタビュー

 2024年のIT調達では、特に加速する円安や世界的な物価上昇を理由とするソフトウェアライセンスの価格上昇への対応が課題となる。一過性のものではない値上げにCIOはどのように対応するべきか。ガートナーの海老名剛氏は、ベンダー値上げ要求への効果的な「交渉術」「リスク管理の4原則」「半年前からの契約交渉」などがポイントだと語る。

為替変動と物価上昇:ソフトウェアライセンス値上げの背景

──ソフトウェアライセンスの値上げについて、ユーザー企業からの質問を受ける機会が増えていると伺いました。まず、ベンダーが値上げを要請する背景から教えてください。

 2023年4月にガートナーが実施した調査結果からは、SaaS契約者の不満が増大している傾向が8割を超え、満足している人の方が少ない状況でした。不満の主な原因はライセンスやサポート料金の値上げにあります。その他には、プロセッサー課金からユーザー課金への変更のような、突然のあるいは一方的な契約ポリシーの変更を通知されたことが上位の理由に挙がっています。

図1:現在の契約への具体的な不満内容 出典:ガートナー ジャパン
図1:現在の契約への具体的な不満内容 出典:ガートナー ジャパン [画像クリックで拡大]

 ベンダーが値上げを求める理由の1つは円安です。2021年には110円台で推移していたものがピーク時は150円台になるなど、ここ2年で急激に円安が進行しました。元々、日本企業は海外のソフトウェアベンダーの製品を多く採用しているので、為替変動の影響を受けやすい。例えば、為替レートが1ドル120円から140円に動くと、単純計算で16.7%のドルの価値上昇になります。

 そして、もう1つの理由が物価の上昇です。IT調達で言えば、世界的なエンジニア不足による人件費の高騰はもとより、データセンター建設の資材調達コスト、センター運営にかかる電力料金の上昇が影響してくる。2023年から日本でも物価上昇が顕著ですが、米国や欧州の物価上昇率はそれ以上の水準で、海外ベンダーは価格を見直さざるを得ない。2・3年前と比べて、30〜50%のライセンス価格アップを要求するベンダーもいると聞いています。

──SaaSだけでなく、オンプレミス製品も含めてライセンス価格は値上げの傾向にあるということですか。

 ソフトウェアライセンス全般的に言える傾向です。ITに限らず、昨今の調達はグローバルな経済情勢の影響を受け、本来であれば円滑に得られたはずの材の調達が困難になっています。IT調達という意味では、以前から海外のメガベンダーとの取引の比重が大きかったことが影響しているのですが、だからといって、日本のベンダーとの取引で、現在の契約条件を維持できるとも限らない。ベンダーが全般的に値上げ要請を持ちかけてくる経済環境ということです。

ベンダー値上げ要求への効果的な交渉術

──だとすると、最初から値上げありきで、話をしようとするベンダーもいませんか。

 一概に「便乗値上げ」とは言い切れないところがありますが、多くのベンダーが値上げに踏み切っていて、交渉をしやすい環境になっていることは確かです。ユーザー企業としては、持ちかけられた値上げの提案を拒否することを考えてしまいますが、基幹システムを構成するソフトウェアのように、実際にはすぐに他社のソフトウェアに移行することは現実的ではないでしょう。むしろ重要なのは、ベンダーに値上げの理由について納得のいくような説明を求めることです。また、早い段階で「これまでの価格から30%上昇の改訂になりますが、この機会に3年契約を選んでいただけるのであれば、値上げ幅を10%に留めることが可能です」と言われるような場合もあるようです。ここでも安易な妥協をしないことが重要です。

──30%から10%に値上げ幅が小さくなると聞くと、それで手を打ちたくなるかもしれませんよね。

 「なぜ30%なのか?」と、数字の根拠の説明を求めることが必要です。為替が理由という回答だとしたら、「以前の想定為替レートはいくらだったのか?新価格での想定為替レートはいくらとみているのか?」を確認するべきですし、物価上昇が理由という回答の場合は「どの地域の何の価格上昇を反映しての値上げなのか?」を確認するべきでしょう。それに、日頃からライセンスの棚卸しをしていて、余分なライセンスがあったら、もっと値上げ幅を小さくすることだってできるかもしれません。

図2:ソフトウェアの調達コスト上昇への対応策 出典:ガートナー ジャパン
図2:ソフトウェアの調達コスト上昇への対応策 出典:ガートナー ジャパン [画像クリックで拡大]

 私が相談を受けた時の対応策としてお勧めしているのが、「リスク管理の4原則」に基づき、複合的な対応を行うことです。個々の対策はいろいろなものが考えられますが、まずは受容すること。ベンダーからの説明のうち、合理的な根拠がある分の値上げは、ビジネスリスクとして受け入れざるを得ないと思います。一方で、合理的な説明ができない分まで受け入れるのはどうか。ベンダーの言い分を鵜呑みにするべきではないでしょう。要は、すぐにベンダーを呼んで契約交渉を行うのではなく、双方が必要な議論をする時間が必要ということです。それから、合理的な意思決定を行うには、IT部門単独ではなく、交渉のノウハウを持つ調達部門や経理部門の意見を聞くようにしたいところです。

図3:調達コスト上昇リスクへの対応方針 出典:ガートナー ジャパン
図3:調達コスト上昇リスクへの対応方針 出典:ガートナー ジャパン [画像クリックで拡大]

次のページ
交渉材料を得るためにライセンスの棚卸しをせよ

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
EnterpriseZine Press連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

EnterpriseZine(エンタープライズジン)
https://enterprisezine.jp/article/detail/19168 2024/02/08 09:00

Job Board

AD

おすすめ

アクセスランキング

アクセスランキング

イベント

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けに、EnterpriseZine Day、Security Online Day、DataTechという、3つのイベントを開催しております。それぞれ編集部独自の切り口で、業界トレンドや最新事例を網羅。最新の動向を知ることができる場として、好評を得ています。

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング