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日本のメーカーは「現場力依存」から脱却し、EU/ドイツの製造業DXに学べ


 現場力に依存してきた日本だが、デジタル化とサステナビリティへのシフトを余儀なくされている。特に、欧州のバッテリー規制やAI規制法案が、日本企業にも適応の必要性を強いており、グローバル市場で生き残るための競争優位を確立するには、生成AIの活用やデジタルツインの導入が不可欠。ドイツの事例から学ぶべき点は多く、日本製造業の未来には変革が求められている。取り組むべき課題は何かを、欧州の製造業に詳しい福本勲氏に聞いた。

DXの全体構想がない日本の製造業

福本勲氏
株式会社東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト / アルファコンパス 代表 福本勲氏

──先ごろ出版された『製造業DX EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略』(近代科学社Digital)ではドイツの製造業を参照しつつ、日本の製造業の取り組みや課題を解説されています。まず日本の製造業のDXの最近の動向から聞かせてください。

 経済産業省が最初のDXレポートを発表したのが2018年のことでした。過剰なカスタマイズによる既存システムのブラックボックス化がデータ活用の阻害要因であることを始め、現状の共通課題については理解が進んだと言えるでしょう。一方で、副題に「2025年の崖」とあったためか、自社の課題を「SAPの2025年問題」と同一視したり、既存ビジネスにデジタルテクノロジーを導入すればいいと考えたりと、本来のレポートの主旨を誤解した企業も多かったように思います。

 元々、日本は人口1億人を超える国内市場があり、内需だけでも規模の小さいメーカーでも事業を続けることができましたが、少子高齢化は労働人口が減ることだけでなく、国内市場そのものの収縮を意味します。これからは韓国や台湾と同様に海外市場に進出しなければ生き残れない。欧州統合データ基盤プロジェクトである「GAIA-X」から、自動車産業のデータ共有プロジェクトの「Catena-X」、製造業のデータ共有基盤「Manufacturing-X」と、欧州では様々な共通基盤を作り、その上で業界を横断するデータ交換を行う仕組みの整備を進めてきました。国内だけのビジネスで、既存プロセスの効率化だけに囚われているようでは先行きが厳しいのではないでしょうか。

 ドイツのデータ標準システム [画像クリックで拡大] 出典:『製造業DX EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略』

──ドイツの「Industrie4.0」に影響され、日本の製造業も戦略的に取り組もうとしたわけですよね。

 標準化やプラットフォーム整備は進んでいると思いますが、そこにグローバル標準との連携の視点があるかは疑問です。欧州は最初に全体像を描いてから細部を落としていきますが、日本では積み上げで全体を作ろうとする傾向がある。でも部分を積み重ねても、全体としては形にならないんです。先に全体像を描く。この順番が重要です。また、GAIA-Xはオープンな取り組みですが、そこのマーケットプレースで取引されるアプリケーションはクローズなもので、オープンとクローズの線引きがはっきりしています。日本でも同様の仕組みを作るならば、その線引きを明確にしないといけないわけですが、それができるかという懸念もあります。

 [画像クリックで拡大] 出典:『製造業DX EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略』

──オープンとクローズの使い分けは欧州の戦略的なものだとして、日本では同じようなことを意識した動きはあるのでしょうか。

 自治体のオープンデータの取り組みのように、全体構想はないまま、個々の自治体が進めているものもありますし、個々の企業でアプリケーションを開発、販売しているものもありますが、オープンな基盤上で動くようなものはないのではないかと思っています。

日本の製造業は欧州のエコシステムに参加できるのか?

──欧州では誰が全体構想を作っているのでしょうか。

 Industrie4.0の場合、ドイツの国主導だからできたわけですが、EU域内全体の場合は事情が変わってきます。多くの国が集まっている分、トップダウンで戦略を作ることはできません。やり方は非中央集権的(decentralized)で、将来どうすれば一緒にやっていけるかを視野に入れつつ、進めています。制度設計もうまいし、どんな役割が必要かを考えてから分担を決めているからでしょう。役割分担もうまい。中核的な存在のボッシュ、シーメンス、SAPはそれぞれがぶつからないような領域を担当しているように見えます。おそらく意図的でしょう。

──日本でそれに匹敵するような企業はいるのでしょうか。

 注目すべき企業としてはコマツです。彼らのエコシステム作りはとてもうまい。LANDLOGは、部品交換から、修理、盗難への対応、省エネ運転支援まで、顧客の保有車両の効率的な運用をサポートしています。中心にあるのは建設現場の3Dデータで、世界のどこで建設機械が動いているかを把握しています。コマツの建機が持つデータは価値あるものに変わったと言えるのではないでしょうか。

──工場内のデータ活用はという面ではどうですか。

 日本の製造業は社内のデータガバナンスに課題を抱えていると思います。工場内ではガバナンスが効いていたとしても、販売拠点と連携していないことはよくあることです。どんな問題が起きるかというと、仮に欧州のエコシステムに参加できたとしても、自社のデータ形式に合わせて、外部から提供してもらったデータを変換しなくてはならない手間が発生してしまう。つまり、エコシステムの恩恵を得るには、データを使うための戦略があり、データをすぐに使える仕組みがあることが前提なのです。欧州企業の場合、SAPのERPをカスタマイズゼロで導入していることもあり、このデータガバナンスの問題はありません。日本ではSAPのERPを導入していても、アドオンを作り込んでいますし、会計ぐらいにしか使っていないので恩恵を受けられないのです。

──BOMを使っての生産管理のようなデジタル化はやっているわけですよね。

 日本の製造業は現場が優秀で、設計よりも品質の高いものを作れるスキルがあるのですが、設計へのフィードバックをしないんですね。ハードだけで制御をしているうちはよくても、テスラのようなビジネスで、このやり方は通用しません。そもそも製品の陳腐化を避けるためには、ハードとソフトを分離し、データで学習したことをソフトに反映させることを繰り返さなくてはならない。この方法には、製品を長く使ってもらえるというメリットもあります。設計段階からデジタルテクノロジーを使い、現場は「この方がいいから」と勝手に改良しない。設計通りに作ることが、ソフトウェア・デファインドのものづくりには必要です。

『製造業DX EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略』(福本勲 著 近代科学社Digital )Amazon 

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「ものづくり日本」という幻想──グローバル企業は対応せざるを得ない新しい規制動向

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この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

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