製造業のデータ共有基盤「Manufacturing-X」
──まずトーマスさんのお仕事内容から聞かせて下さい。
トーマス・ザウアーエスィッグ氏(以下:トーマス):製品で言えば、ERPのSAP S/4HANAから、サプライチェーン管理のSAP Digital Supply Chain、経理・財務管理、支出管理、ビジネスネットワーク、人事・人材管理、CRM・CXに至る全体を統括しています。また、それぞれの製品の戦略から、オペレーション、エンジニアリング、お客様サポートに至るまでのプロダクトライフサイクル全体を見ていますし、この他、日本を含む世界20カ所に設置しているグローバル研究開発組織「SAP Labs」も統括しています。
──Manufacturing-Xはどんなきっかけで立ち上げたのでしょうか。
トーマス:背景には、世界各地で起きている様々な危機がビジネス活動に及ぼす影響に対処する仕組みを構築する必要性を痛感したことがあります。パンデミックも大きな危機でしたが、サプライチェーンの分断の原因となったスエズ運河座礁事故などの事件が相次ぎました。また、地球規模の問題という意味では、気候変動問題も深刻なものです。製造業にとって、サプライチェーンのレジリエンスやサステナビリティの経営課題に対処するには、インダストリー横断的なネットワークが必須になります。
そして、そのネットワークを価値あるものにするには、多くの関係者に参加してもらわなくてはなりません。先行する自動車業界のコンソーシアム「Catena-X」は、世界的なOEM、サプライヤーが参加する規模の大きなデータ交換ネットワークになりました。2023年4月時点で、Catena-XにはOEMやサプライヤーを含む144の組織が参加しています。富士通やNTTデータのような日本企業を含むすべての参加組織が協働し、オープンにデータ交換を行うために重要な標準化に取り組んでいるところです。
同様のデータエコシステムは、他のインダストリーにも応用できるのではないか。Catena-Xの構築ではIndustry 4.0やIoTの知見が活かされました。その成果に刺激を受け、次のステップとして2022年12月に発足したのがManufacturing-Xです。Catena-Xと同じ”Federated(連帯して)”、かつ”Trust(信頼を伴って)”の2つを重視して、参加組織が相互にデータ交換のできる仕組みの構築に取り組み始めました。また、Catena-Xでは積極的に業界標準を採用してきたので、Manufacturing-XでもGAIA-X、IDSA、OPC-UAなどを採用しています。データに関する法律、サイバーセキュリティに関する法律などが施行開始となり、規制も厳しくなってきました。標準への準拠はその意味でも重要です。