『2023年版ものづくり白書』のハイライト
シンポジウムでは、最初に経済産業省の杉原諒氏が登壇し、6月22日に発表した『2023年版ものづくり白書』のハイライトを紹介した(図1)。
ウクライナ情勢、脱炭素、人手不足の対応など、製造業を取り巻く経営環境は複雑性を増すばかりだ。長年、日本の製造業の強さは、現場の高度なオペレーションと熟練技術者の技能が支えてきたが、せっかくの知見が工場内で閉じてしまい、部分最適化が進行してしまった。システムの視点でも、生産性を高めてビジネス成長を実現するには企業内のデータサイロ化が原因で、システムの分断が問題になっている。
現場の強みという日本の製造業独自の強みは残し、企業競争力を高める全体最適化を図るには何をするべきか。DXに取り組む製造業をサポートするため、経済産業省は2024年上期までにスマート工場の設計に役立つガイドラインを策定し、公表することを7月に発表している。ガイドラインでは、製造業のDX推進を促すため、スマート工場に必要なERP、SCM、MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)/MOM(Manufacturing Operation Management:製造オペレーションマネジメント)などのテクノロジーを、「生産性向上」「サプライチェーンの可視化」などの目的別に示す。製造DXの当面の目標は、社内外のデータ連携でプロセス全体を可視化することになり、その具体的な方向性を事例と共に示すのがガイドライン策定の目的である。
プロセス全体の可視化の取り組みで先行するのはドイツだ。ドイツ政府は、「Industry4.0」の国際展開を進め、ドイツ製造業のDXによる全体最適化の支援を行っている。その政策の一環として、2021年3月に立ち上げたのがCatena-Xで、2023年4月からは運用も始まった。Catena-Xは自動車業界のサプライチェーンに関するデータ交換のためのコンソーシアムで、日本のデンソーや旭化成も参加している。気候変動問題やサプライチェーンの分断で明らかになったのが、これらの課題は個社単位で解決できるものではないということだ。原材料、部品、車両のトレーサビリティ監視、カーボンフットプリントの評価、品質管理は、サプライチェーン全体でデータを可視化して初めて適切な対策を講じることができる。
経済産業省はスマート工場のガイドラインの提供を通して、データドリブンなものづくりの実現を目指す日本の製造業を支援しようとしている。