AIはルーチン作業や苦手な解析を肩代わりする
──初日の基調講演では「Magic SOLIDWORKS」というキーワードが披露された。これはAIの活用で変革する新たな設計のあり方とのことだが、今後は設計者がデザインの要望を伝えるだけで、設計作業は完了するような世界が実現すると考えるか。
Bassi:近年はAIモデルが充実しているため、自然言語にセマンティックを付加する(人間が日常で使う言葉や文章にコンピュータが理解できる形で意味を与える)ことが可能になった。さらに特定のタスクに関連したシステムとの対話もできるようになっている。
基調講演ではフリーハンドのスケッチを起点に、設計者がAIと対話しながら電気自転車のハンドル部分を設計・シミュレーションするデモを披露した。ただし、これらの操作は(ChatGPTのような)汎用的な生成AIには不可能だ。
デモで披露したような、AIとの対話で設計が可能になる背景には、その企業が蓄積したデータベースの存在がある。インタフェースはAIとの対話だが、その裏側では企業が持つデータベースから過去のハンドルバーに関するデータを収集し、必要な情報を集約・分析している。
つまり、設計のみならずモデリングやシミュレーションといったハンドル部分の設計に必要な過去のデータがあれば、適切な形状やサイズ、性能を設計者に提案できる。こうしたことが実現できているのは、我々が提供するAIモデルが充実しているからに他ならない。
──AIによる設計支援が当たり前になれば、設計者にはこれまでとは異なるスキルが求められるようになるのか。
Kumar:AIが生成した選択肢を設計者に提供することは、設計者に対してより多くのアイデアを生み出す機会を与えると同時に、煩雑な作業から解放し、クリエイティブな作業に集中できる環境を提供することを意味する。
基調講演で紹介した電気自転車のハンドル部分を設計・シミュレーションするデモは、アルゴリズムやプログラミングを用いて設計の可能性を広げる「ジェネレイティブ・ドローイング[※1]」を基としている。
[※1] 特定のパラメータや制約条件に基づきアルゴリズムやプログラムを使用して設計案を自動生成するアプローチ
設計者であればだれもが感じていることだが、各パーツの基本構造を満たす最初の設計作業はルーチン作業であり、クリエイティブな観点から考えれば付加価値を生み出さない。企業が注力すべきは見栄えがよく、かつ電動性能に優れたハンドルを設計することだ。もし、新興の自転車会社が電気自転車の基本構造設計に時間を浪費しているとしたら、その企業の競争力と生産性は低下し、いずれは他社にビジネスを奪われることになる。
そう考えると製造現場にAIが普及することで、設計者にはより「想像力」が求められるようになるだろう。AIが導き出せるのは、人間の過去の経験や知識に基づく範囲のアイデアとそれらを分析した情報であり、未知のことは想像できない。想像こそが人間の本質であり、AIが奪うことのできない領域だ。
一方でAIは設計者が不慣れな解析──数学的モデリングの難しさや計算の複雑さがある非線形解析など──を行う場合、適切な設定を提案したり、解析結果を解釈したりといったルーチン作業以上の支援ができる。
例えば、心臓病の治療で利用するステント(血管内の狭窄部位を拡張するために挿入する医療デバイス)は非常に特殊なデザインであり、患者の使用状況に近い条件で複雑なシミュレーションを繰り返す必要がある。そうしたケースに対し、われわれのシミュレーション・ソリューション「SIMULIA」(に備わるAI)を活用すれば、設計者が特定のパラメータを入力するだけで複雑なシミュレーションがすべて行われ、人間が理解できる形で結果を表示してくれる。こうした領域でのAI活用は、今後も加速するだろう。