生成AIを全社員が使える形に
中外製薬は2020年からDXの取り組みを強化しており、CHUGAI DIGITAL VISION 2030にて「デジタル技術によって中外製薬のビジネスを革新し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーターになる」ことを掲げている。その実現のため、デジタル基盤の強化やすべてのバリューチェーンの効率化、デジタルを活用した革新的な新薬を創出することを基本戦略としており、これらのビジョンの具体策と関連性を「2030年の絵姿」として描いている。その中で、「生成AI」についても記載されている。
生成AI活用に関しては、「全社員が生成AIを使いこなし、全社DXを圧倒的に加速させる」(2024年6月25日時点)という方針を掲げている。まずは、ガバナンス体制や社内開発・推進体制を整備しながら生成AIを活用できるように、社内外データの特定と収集、アプリケーション開発基盤構築、生成AI人財ケイパビリティ強化を進めているとのことだ。そのうえで、生成AIの精度向上を狙い、プロダクトの開発と運用の整備、横展開などの流れを循環させながら活用に取り組んでいるという。
実際に取り組みを推進していく体制として、同社はデジタルトランスフォーメーションユニット内に生成AIタスクフォース(CoE)を形成。その中で、以下のような5つのタスクを進めている。
- プロジェクト推進支援タスク:全社のニーズの把握やユースケース選定など
- 自社生成AI構築推進タスク:独自のLLMや生成AIモデル構築など
- 基盤構築推進タスク:PoC環境やプラットフォーム共通機能の設計・構築、全社横断の生・成AI活用アーキテクチャの検討など
- 人財育成支援タスク:人財育成戦略の策定、必要スキルの明確化、教育コンテンツ開発
- ガバナンスタスク:ルール・ガイドラインの策定や全社展開など
なかでも同社が特に意識しているのが、生成AIを積極的に活用できる環境構築と、安心して活用できる土壌作りだ。前者については、ChatGPTやCopilotなどの汎用ツールを導入し、社員それぞれが「何ができるか」を模索できる場を提供。後者においては、知財や著作権侵害、偏ったアウトプットなどの主要なリスクを6つ特定し、ガイドラインを提示して生成AIに慣れていない社員の不安を払拭するとともに、リスクに対応するためのアプローチがとられている。
同社では様々な日常業務に生成AIを活用し始めているが、その一例として、①プロトコール作成補助、②プログラミング効率化、③各種テキストデータ分析などが挙げられる。①は、生成AIに臨床試験の実施計画書(プロトコール)のドラフトを作成させることで効率化に寄与。②は、生成AIにPythonやRのコードを書いてもらう、あるいはエラーを修正してもらうことで、データサイエンティストの業務効率化や、非データサイエンティストのプログラミング支援につながっている。③は、各種アンケート結果の集計や分析に生成AIを活用し、生産性を高めている。今後は社内外のデータや、画像などテキスト以外のデータの活用も狙っているとのことだ。