レジリエンス強化でもクラウドシフトの波が……ただしクラウドも“完璧”な特効薬ではない
「レジリエンス」という言葉があります。“回復”や“ 復元”を意味する用語ですが、昨今、話題になっている様々なインシデントや、「世界中のWindowsがブルースクリーンになってしまった」という事故のようなものも含めて、事業継続ができない状態に陥ってしまう事件が相次いでいます。被害は短期的なものから長期的なものまで様々ですが、これが問題になっているということで、速やかに回復できる対策が求められていると。これをレジリエンスといいます。
もちろん、そもそもインシデントに遭遇しないことも大切です。ただ、どうしても避けられないような事態、インシデントも十分に起こり得ます。少し前からセキュリティの世界では、「侵入前提で考えよう」という潮流が興っています。そして、これには賛同しつつ「まあでも、侵入されないことも大事だよね」みたいな話もありました。
侵入前提で考えるというのは、基本的には「侵入されつつも被害を最小限に抑えよう」という話だったかと思います。しかし、こうして様々なインシデントや被害が起こってしまっている今、問題になっているのは、「『やられてしまった』という事態に際して、どう回復するか」ということでしょう。
これについては、明快な解があるわけではありません。しかし、まず私が思いつくのは「クラウドに寄せたらどうか」というアイデアです。
なぜクラウドに寄せるのか。大手のクラウドであれば、ランサムウェア被害に遭ったとしてもまったく使えなくなったり、長期で使えなくなったりといったことはほとんど起こらないからです(もちろん、ごく稀に例外もあるでしょうが……)。この前提に立ちますと、企業の資産(ソフトウェア資産も含む)、IT資産やそのデータがクラウド上にあれば、「クラウドにログインさえできれば仕事は回復・継続できる」ということになります。
これは今回に始まった話ではなく、そもそも企業のITシステムそのものがクラウドシフトしてきており、元々そういう傾向にありました。コロナ禍で働き方が変化し、自宅など遠隔から企業システムやデータ資産にアクセスする必要が出てきたため、クラウドへシフトしたほうが良いのではという流れになってきたのです。
また、コロナ禍や働き方改革以前から、旧来のITシステムや企業固有のシステムの維持管理に限界が出てきており、「2025年の崖」として話題にもなっていました。ですので、一種のアウトソーシングとして、企業システムそのものをクラウド活用して運用していこうという流れがありました。
そんなこんなでクラウドシフトが進んできており、レジリエンスという点でもクラウド活用の流れが起こるのは自然なことであるように思います 。
ただ、クラウドシフトしたからといってそう簡単に解決するわけではないということで、「じゃあクラウドは絶対に大丈夫なのか?」という話があるわけです。大手企業のクラウドがランサムウェアでやられてデータが全部消えてしまうような事件こそまだ起こっていませんが、もう少し広く見てみると、それなりに大きな事故というのは起こっているのです。
たとえば、韓国のあるホスティング事業者がランサムウェア被害に遭い、身代金を払えるほどの資金もなかったため、会社そのものを売却して身代金を工面しようといった話がだいぶ前にありました。
あるいはランサムウェア被害ではないですが、フランスの大きなデータセンターで火災が発生し、全焼してしまったことがありました。バックアップもそのデータセンターの中に存在していたのですが、すべて燃えてしまったと。この火災によって、日本ではそれほど被害はなかったようですが、ヨーロッパでは著名なゲームなどが実行基盤を失ってしまいました。それにより、プログラムはおそらく回復できると思うのですが、ユーザーのデータはだいぶ失われてしまったようです。