ソブリンクラウド普及にともなう、新たな人材ニーズと育成の課題
ソブリンクラウドの登場は、クラウド業界に新たな局面をもたらすだろう。従来のパブリッククラウド中心の環境では、クラウドインテグレーターのエンジニアは、主にクラウドの各種サービスの活用と最適化に注力してきた。しかし、ソブリンクラウドでは、クラウドインフラそのものをセキュアかつ安定的に運用する能力も求められる。
富士通やNTTデータがOracle Alloyを採用し、ソブリンクラウドサービスを展開する動きは、この変化を象徴しているといっても過言ではない。彼らは、OCIのクラウドインフラを深く理解し、24時間365日体制で高可用性と信頼性を確保できるクラウドの運用体制も構築する必要がある。
この流れは、クラウドエンジニアのスキルセットに変化を要求するだろう。従来のクラウドサービス活用に加え、クラウドインフラの構築・運用、セキュリティ対策、コンプライアンス対応……と、より広範な知識とスキルが求められることは、容易に予測できる。
そのような状況下では、クラウドインフラの運用に精通したエンジニアの不足が懸念される。パブリッククラウドの普及で、クラウドサービス活用に長けたエンジニアは増加したが、クラウドインフラの運用を担える人材は限られるからだ。「インフラ運用はなるべくクラウドベンダーに任せ、いかにその上のサービスを使いこなすか」ということに注力してきたため、これは致し方がないことでもある。
2024年初頭、AWSが日本市場に巨額の投資をすることを明らかにしているが、その行き先のほとんどは「パブリッククラウドのインフラ増強」だろう。Oracleも大規模投資を明らかにしているがインフラだけでなく、人的リソースの確保にも投資することとなりそうだ。日本オラクル 専務執行役員 クラウド事業統括の竹爪慎治氏も、インフラに近い領域におけるエンジニア人材確保の必要性については、以前から言及していた。ソブリンクラウドが本格的に日本で普及するためには、クラウドのインフラ運用に関する高度な専門知識とスキルを持つ人材が不可欠であることも示唆されたということだ。
クラウドインフラの運用を担えるエンジニアの育成は急務であり、たとえば大学や専門学校と連携してクラウドインフラの運用に関する専門的な教育プログラムを開発・提供する必要性も考えられるだろう。SI企業などでは、クラウドインフラの運用に関する研修プログラムを実施し、既存のエンジニアのスキルアップを図ることも欠かせない。エンジニア同士が知識や経験を共有できるコミュニティを構築して、相互学習を促進することも有効だろう。
とはいえ、大手SI企業には、元々オンプレミスでミッションクリティカルなシステムインフラを構築・運用してきたノウハウやスキルが蓄積されているはずだ。それを迅速にOracle Alloyに対応する形でアップデートできれば、ソブリンクラウドに対応できる“潜在的なエンジニア”は日本のIT市場に少なくないとも思われる。
ソブリンクラウドの普及は、新たな人材ニーズを生み出すとともに、クラウド業界全体のスキルアップを促す可能性を秘めている。産官学が連携し、新たな人材育成に積極的に取り組むことで、ソブリンクラウドの健全な発展、日本のデジタル活用を推進できるはずだ。