第1ステップ「業務のカプセル化」とは
連載第2回の本稿から次の第3回にかけて、モダナイゼーションの実践編としてレガシーシステムのクラウドシフトを実際の流れに沿って説明していきます。本稿では業務の整理と分離から顧客接点基盤の構築までを対象として解説を行います。
前回では、モダナイゼーションを進めるためのアプローチを中心に、目的の設定からその推進方法までを解説しました。具体的には、データ分析からインサイトを洗い出すSoI(System of Insight)ファーストで顧客のインサイト獲得を中心に考えることが重要だとして、顧客接点のある部門かどうかを判断軸に既存システムをSoE(Systems of Engagement)/SoR(Systems of Record)領域に分離する考え方を解説していきました。
今回は、システムをSoE/SoR領域に振り分ける方法を具体的に説明します。この最初のステップとなるのが“業務のカプセル化”です。
業務のカプセル化とは、実際の業務(動作)を、扱う情報(データ)とセットでひとまとめにすること。カプセル化によって業務ごとの独立性を高めて疎結合にし、変更の影響を最小化する単位を見極めることで、業務に拡張性と柔軟性をもたせることが目的です。SoE/SoR領域に業務を振り分けるための基本的なアプローチでは、これらのカプセル化した業務に顧客接点があるかどうかが判断軸になります。
ただ前回も解説したように、既存のシステムはSoE/SoRの観点でシステムが分かれているわけではないため、既存のシステムをもとにカプセル化を行うといったボトムアップのアプローチでは整理手順が複雑になってしまいます。加えて、既存の業務の中には部門ごとにExcelなどで管理されているものもあり、必要な業務がすべてシステム化されているとは限りません。この状態でカプセル化を行っても、すべての業務を網羅できない可能性が出てきます。
従って、カプセル化を行うにあたっては“業務”の観点からトップダウンのアプローチで考えていく必要があります。とはいえ、企業全体の業務の整理を行うと膨大な時間がかかるため、部門などの既に整理されている組織を軸にしてカプセル化していきます。この考え方は、SOA(Service Oriented Architecture:サービス指向アーキテクチャー)が提唱された時代に、アプリケーションをサービスとしてコンポーネント化する際のフレームワークとして用いた手法のため、馴染みのある方もいるのではないでしょうか。
情シスが他部門業務を理解するための“共通言語”に
カプセル化の具体的なアプローチについて、ある組織の販売プロセス業務を例にとって解説していきましょう。この組織で販売プロセスに関連する部門は以下の4つとします。
- 顧客から商品を受注して請求を行う営業部門
- 受注した販売データをもとに請求書の発行と入金の管理を行う経理部門
- 生産状況に応じて必要な部品などを調達し、製品を生産する技術部門
- 在庫を管理して商品の出荷を行う配送管理部門
この場合、顧客と直接やりとりを行う部門は営業部門のため、SoEに該当するのは営業部門のみで、それ以外の部門はSoRに分けられます。ここからもう一段深堀りして、対象の部門で受け持つ業務を洗い出すことで各部門の業務をカプセル化します。これにより、各部門が受け持つ業務(動作)と扱う情報(データ)がはっきり分けられて各部門の役割が明確になる上に、部門内外を含む業務間の関連も整理しやすくなります。
また、カプセル化を行うことで、システム部門が動作とデータを持つ(システム上の)コンポーネントとして他部門の業務を理解できます。このコンポーネントを共通言語として、関連する業務や部門横断的な業務フローの整理もできるようになるのです。