受け継がれる“技術”と“精神”
■登壇者
中谷浩氏
川崎重工業株式会社
代表取締役副社長執行役員社長補佐、技術・生産・調達・TQM・DX戦略担当
中谷氏は1984年に川崎重工業へ入社し、技術開発や企画業務に従事。2020年には取締役に就任し、経営企画担当、デジタルトランスフォーメーション担当、船舶海洋カンパニー担当、技術開発本部長を務め、翌年にはサイバーセキュリティ担当も兼任した。2022年からは代表取締役副社長執行役員として、社長補佐および技術・生産・調達・TQM・DX戦略などの責任を担っている。
中谷氏は冒頭、「川崎重工業の事業変革は『産業イノベーション』とも呼べるかもしれません。当社の歴史が示す成果は、世界に誇る“製造技術”と、産業界のリーダーであり続けようとする“精神”にあります。この技術と精神は、新しい時代に向かう当社の全従業員に受け継がれ、社会課題の解決に貢献する原動力となっています」と語る。
ものづくりの精神はこれからも不変だが、中谷氏は、「過去の延長線上で同じ手法を続けるだけでは現代のニーズに応えられない」とし、さらなる変革が必要であるとの考えを示した。そして今後100年、社会課題の解決だけでなく、日本の産業界の未来にも貢献することを目指しているとした。その背景には、創業者である川崎正蔵から受け継がれる「そのわざを通じて国家社会に奉仕する」という理念がある。
川崎重工業を“新たな製造業”の姿に
製造業界においてもデジタル技術の活用は進んでいるが、より高度なものづくりの実現は容易ではない。顧客へ提供するサービスだけでなく、社内のオペレーションや製造プロセスそのものの変革も求められている。また、長い伝統と歴史を持つ企業にとって、DXの浸透は一筋縄ではいかない。
組織を構成する一人ひとりの意識を変革することは難しい。「人にはそれぞれの心や経験があり、それらは尊重されるべきだが、変革期には人の弱さが組織全体に大きな影響を与えることもある」と中谷氏。だからこそ、先進テクノロジーを活用して弱点を補うことが重要だと痛感しているという。
同社は、「TQM(Total Quality Management:総合的品質管理)」の思想を基盤にすべての業務プロセスを見直し、行動規範の定着を図ることで、企業風土の醸成とコンプライアンス強化を進めている。これにより、「川崎重工業が時代の模範となり、社会に向けた変革をリードする」ことを期待していると中谷氏は述べる。
社会に対する奉仕の想いは、現在の代表取締役社長である橋本康彦氏にも受け継がれている。橋本氏は川崎重工業への信頼を次世代に託すために、顧客のニーズを敏感に捉え、迅速に対応することの重要性を認識しているとのことだ。そこで、DXのさらなる推進や、スピーディに成果を生み出す文化の醸成を掲げているのだという。川崎重工業を、「デジタル時代に適応し、急速な社会の変化にも応えられるものづくり企業」へと進化させようとしているのだ。