MLOps実現のカギは「活用フェーズ×カテゴリー」の2軸
本書では、MLOpsを「機械学習の成果をスケールさせるための様々な取り組み」と定義し、その考えに基づいたMLOpsの全体像と構成要素や、企業の具体的な事例などを解説。機械学習エンジニアや、組織内での機械学習の活用に課題を感じている人などを対象に、課題解決のヒントを提示している。
まず、MLOpsの全体像を捉える際には、「活用フェーズ×カテゴリー」の2軸がカギとなる。要件定義から継続利用までの活用フェーズで、それぞれに必要な取り組みをカテゴリーごとに捉えることで、全体像が掴めると杉山氏らは説明する。機械学習の活用フェーズは、以下の流れで進められるという。
- 机上実験:実際にサービスで使われるべき機械学習モデルの要件を定義。モデルの精度など、モデル単体で、机上で確認できる指標を捉える
- 実証実験:机上実験を行った対象をもとに、実際の事業要件を満足する水準まで高める段階。A/Bテストなどを用いて、機械学習システムを提供した場合の価値についての確認も行う
- 1つのチームでプロダクトとして利用:実証実験まで完了した機械学習モデルを、小規模チームかつ特定サービスで運用する
- 全社的に利用:ノウハウがたまった段階で、全社的に機械学習を活用する
また、機械学習を活用するうえで考えるべきカテゴリーは、「技術」「プロセス」「文化」の3種類に分類できる。これらは、文化を土台にしてプロセス、技術が確立されていくという関係性にあるという。具体的には、技術を実現するためのプロセスがあり、そしてプロセスを組織として実行するために文化が必要となる。
本記事では、機械学習モデルを活用するための文化醸成の方法について紹介しよう。MLOpsの土台となる文化を育てる際、以下2つの視点から考える必要があると杉山氏らは説明する。
- 企業が元々持っている文化:企業のミッションや行っている事業、働いているメンバーのバックグラウンドなどから作られる文化。なお、業種区分や事業性の違いにより、施策を打つまでに必要なプロセスや意思決定の仕方は異なる
- 機械学習を活用していくうえで根付かせる文化:機械学習には特有のメリット・デメリットがあり、有効活用するために共通した文化を醸成する必要がある
企業で機械学習活用を進めるうえでは、2つ目の文化を浸透させていく必要があるが、1つ目の文化によっては、浸透のさせやすさを目指す水準も異なってくるため、個別具体的な根付かせ方が必要となってくる。また、文化を整えるためにはいきなり大きな変革を行うのではなく、スモールスタートで始め、成功事例を作りながら全社に広めていく方法が有効だ。
また、企業で根付かせていくべき文化の要素については、以下の5つが挙げられている。
- イノベーションと継続的な学習:既存の技術活用で満足せず、常に最新の研究や事業活用事例を追い続け、技術力やサービスの進化を重ねることで、成長と成功を生み出す地盤が固まる
- 不確実性の許容:機械学習モデルの性能は様々な要因の複雑な関係性に依存し、不確実性を抱えている。その中で成功確率を上げるには、研究論文やサービス事例などを把握し、分析することが重要
- データ駆動:施策の効果を定量的に評価し、保存する文化を醸成することが重要。これにより、再現性を確保できる
- 透明性と説明責任:内部の計算が複雑でブラックボックス化しがちな機械学習モデルに対し、説明可能性を考慮した予測モデルを設計するなどして、サービスに導入する際の懸念点を解消することが必要
- 倫理的なアプローチ:自社としての利益追求だけでなく、ユーザーの感じ方にも配慮したサービス提供が必要。そのためには、データの活用の仕方がユーザーへのメリットとして還元されているかなどの確認が重要となる