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Inforが標榜する「インダストリークラウドコンプリート」 CMOが再構築するマーケテイング戦略とは

「Infor Velocity Summit in Amsterdam」現地レポート

 業界特化型のERPを提供するInfor、その顧客は世界に6万以上を誇る。同社は2014年にAmazon Web Services(AWS)との提携の下で開始した変革を終え、今後マーケティングに力を入れるという。同社でCMOを務めるKirsten Allegri Williams(カースティン・アレグリ・ウィリアムズ)氏に、Inforのマーケティング面の戦略を中心に話を聞いた。

変革を続けてきたInfor、CMOが描く青写真は

──Inforは「インダストリークラウドコンプリート(Industry Cloud Complete)」と自社を表現しています。ここに込めた意味や思いについて教えてください。

ウィリアムズ氏(以下略):インダストリークラウドコンプリートとは、Inforには完成された業界別クラウドソリューションがあり、その価値を提供できるという意味を込めた言葉で、10月に米国で開催したフラッグシップイベントで打ち出しました。

 1年数ヵ月前にCMOとして参画し、最初に感じたのは「Inforには揺るぎない素晴らしい歴史、技術、実績があるのに表現できていない」ということです。

 これまでInforは数年がかりで自社の変革を進めており、クラウドへの移行を完了させるとともに「Infor OS」「Value+ solutions」などから構成される製品体系に整理し、カスタマーサクセスが全体を包含するような体制を2024年に整えることができました。

Inforが再構築した新たな製品・組織体系図

 これにより価値を届けるためのフレームワークが確立したと考えており、「インダストリークラウドコンプリート」としています。

──では、「インダストリークラウドコンプリート」を標榜するにあたり、技術面とサービス面での具体的な特徴や強みを教えてください。

 ERP市場におけるInforの最大の特徴は、業界別クラウドアプリケーションであるという点です。業界特化型のクラウドソリューション「Cloud Suite」とエッジで動くアプリケーションがあり、それらの土台としてクラウドプラットフォーム「Infor OS」が存在しています。

 それぞれ単体で見たときには異なるカテゴリーに分類され、それぞれにプレーヤーがいます。一方、Inforは“マイクロバーティカル”と言えるほど深い業界知識をもっており、それを活かした製品を開発するためにも統合を進めているのです。

 そして、これを実現するものが「Infor OS」です。アプリケーションやワークフロー、プロセスなどを統合することで、ユーザーにビジネス価値をもたらすことができます。また、こうした技術的な取り組みに加えて、カスタマーサクセス(CS)のポートフォリオも強化してきました。

 今、多くのベンダーがCSに取り組んでいますが、InforのCSは契約前から始まることが特徴的です。我々の製品・ソリューションを提供するためのメソドロジーについて考えなおしてみたとき、実装前の段階から支援すべきだという結論に至りました。Inforを導入するという購買体験は、他のベンダーとはまったく異なるものだと言えるでしょう。

──契約前からカスタマーサクセスが始まるとのことですが、具体的にはどのようなことを行うのでしょうか。

 いくつか挙げられるのですが、まずは「クラウドを受け入れるための準備」、クラウドを受け入れるために不可欠である「チェンジマネジメント」を支援します。

 我々が提供する業界別のベストプラクティスならば、80〜85%の業務をカバーできるため、自社の強みとなる固有のプロセスにフォーカスできます。しかし、企業の多くが複雑かつ自社固有のプロセスを実装しており、やり方を変えるという点で苦労しています。だからこそ、チェンジマネジメントなしには、我々のもつ業界別のベストプラクティスを受け入れることが難しく、必然的にクラウドアプリケーションに移行してもメリットが得られなくなります。

 たとえば、契約前の潜在顧客企業とのワークショップでは、クラウドへの準備、従来のやり方を変える必要があることについて理解を深めてもらいます。そして、バリューマップを用いて「どのような成果を得たいのか」を明確にします。このようにお互いの認識をあわせてから契約に進むのです。

 このとき、ベストプラクティスを採用する準備ができていなかったり、カスタマイズをたくさん行いたかったりした場合には、その企業にとってInforは適していないかもしれません。なぜなら、Inforは契約いただいたユーザーには、ビジネス上のメリットを感じてほしいからです。

 このように契約前に双方が透明性をもつ、つまりCXが始まっているのです。これは他社との大きな差別化要因ともなっています。企業は自社のコアビジネスをクラウドERPで動かすことに対して不安、場合によっては恐怖を感じていることも少なくありません。我々は安心してクラウドの世界に足を踏み入れてほしいと思っています。

──バリューマップが重要な役割を果たしているのですね。バリューマップも新しく提供するサービスになるのでしょうか。

 Inforのバリューマップは、よくあるパワーポイントのスライドとはまったく異なり、業界特有のプロセスを、その業界にとって最も重要なバリュー・ドライバーに直結させたものです。これは製品のロードマップにも反映されています。

追求すべきビジネス価値についてマッピングしている様子

 バリューマップ自体は以前からありましたが、今回は業界知識やベストプラクティスを取り入れ、プラットフォームのプロセスインテリジェンスと連動させることで「どのプロセスが最適化され、バリューを生み出しているのか」を把握できるようになりました。これを利用することで、何を自動化すべきか、どこから大きな価値を得るべきかを定めて実装を進められます。

 この新しいバリューマップ機能は、まず食品・飲料業界向けにローンチし、他の業界にも拡大していきます。今はプロダクトチームと協業してロードマップを定めているところですが、近い将来あらゆる業界で利用できるようになるでしょう。

──では、バリューマップを用いた事例があれば教えてください。

 高級フォークリフトメーカーであるCombiliftの事例を紹介しましょう。同社は、形状が異なる6万ものモデルを展開しており、アストンマーティンやフェラーリといった自動車メーカーのように、顧客の仕様にあわせたカスタマイズも行うなど、1つとして同じフォークリフトはないといいます。

 Combiliftが特に課題としていたのは「カスタマーサービス」。問題が発生した顧客からの問い合わせに対して、電話をたらい回しにしてしまうという事象が発生していました。異なる部署に同じ問題について記録が残っているような状況です。また、スペア部品やメンテナンスの推奨事項についても一貫性や整合性がとれておらず、誤配送や誤修理が増えていました。総じてコストと時間に無駄が多く、顧客満足度は低下していたのです。

 そこで、バリューマップをもとにAIを利用して解決することにしました。それまで顧客からの問い合わせに応じるために、異なる部署を往復する必要があったところを1回で完了する“ファーストタイムフィックス”を目指しました。さらに機械学習を用いることで保守契約の更新時期、顧客の手元にある部品、事前に修理が必要と予測される部品の情報を共有。エンジニアが1度現場に赴くだけで、必要な作業をすべて完了できるようにしました。

 これにより、サービス完了までのコストを40%削減できると見込んでいます。さらには、フォークリフトの状態とライフサイクルを照らし合わせ、追加の提案もできるでしょう。顧客担当者のスキルレベルに左右されることなく、カスタマーサービスの品質を一定に保てます。

次のページ
クラウドERP領域には多数の競合、Inforの勝ち筋とは

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この記事の著者

末岡 洋子(スエオカ ヨウコ)

フリーランスライター。二児の母。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている。

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