デザイン思考のアプローチ、なぜエンジニア人材に必要なのか?
演習を受けている学生に耳を傾けてみると、ワークショップはおおむね好評のようだ。ビジネス現場での実践経験を積んできた講師による授業は、学生にとって新鮮であり、内容も納得できるものだからだ。学生からは「ワークショップ演習を卒業研究のテーマを決める前に受けたかった」との声も聞こえてくる。演習を受けた後であれば、卒業研究のテーマも変わっていたかもしれないという。
![授業風景](http://ez-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/21420/21420_04.jpg)
小山教授は、ヒューマンインターフェースの理論における認知科学に触れると、「人間の普遍的な原理なので、そう変わるものではありません。ただし、それを適用する実際のシステムや実用例には新しいものが出てくるため、常に最新のトピックを取り入れる必要があるのです」と述べる。そうした観点からも、システム開発の現場で実践されている要素を取り込んだ、UXデザインスターターキットを使うことに意味があるという。
「実際のシステム開発における『デザインのツボ』のような部分は、企業の第一線で活躍されている方のアドバイスが有効です」(小山教授)
特に演習では課題解決に向けて、対象のペルソナを明確にする。課題解決の対象となる“ユーザー像”が曖昧なままデザインを描いても、良いものは作れないからだ。「ユーザーが何を求めているのか。自分の思い込みだけではなく、実際に当事者から聞き取りをして理解を深めることが重要です」と小山教授。UXデザインスターターキットの演習シートでは、うまく実践できるように構成されているとも評価する。
ユーザーは、感じていることを正確に言語化できないことが多い。明確に「ここを直してください」と言えず、「なんだか使いにくいので、このアプリケーションは使わない」となってしまう。そこを掘り下げ、明らかにするインタビュー手法などが、学生にとって役立っている。
![インタビュー&分析ワークショップの様子](http://ez-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/21420/21420_05.jpg)
一方で、自説の仮説検証のためではなく、「最初に正しいニーズを見つけるところが大事です。そこは念を押して伝えています」と酒井氏は話す。特に高専の学生は、プログラミングなどの技術スキルが高い。それ故に「こうしたところを改善すれば便利だ」と考え、すぐにそれを作ろうとしてしまう。だからこそ、課題解決のために立てた仮説検証のためだけに、デザイン思考でアプローチしないように注意を払う必要もあるとした。
たしかに技術力があれば、解決できそうとわかった途端に一気に進みがちだ。立ち止まり、自分たちが実現しようとしているものは、本当にユーザーのニーズとあっているのか。“課題解決のためのモノづくり”においては、そもそもの課題は何か、誰にとっての課題なのかなど、しっかりと見つめなおす必要がある。前述したようなUI/UXデザインによるアプローチを学ぶことは、最新技術や高度な開発スキルを身に付ける以前に、エンジニアが最初に学ぶべきことだと言えそうだ。またSI企業にとっては、UI/UXデザインを学んだ人材が集まることで、顧客のDXにおける良き伴走パートナーとなれるだろう。