日本企業が取るべきAIガバナンスの実践アプローチ
工藤氏は日本のAI法案について「現時点での法案によると、政府に調査権が付与されます。罰則はないと報道されがちですが、正確には『処罰は既存法令による』という意味です」と説明する。「企業にとっては、新たな罰則がないことはおそらく良いニュースでしょう。また、AI事業者ガイドラインもそのまま活用され、ハードローとソフトローを組み合わせたハイブリッド型のアプローチを取ります」と総括した。
さらに工藤氏は企業に対して、次の3点を要望している。
- AI利活用と開発の積極的な推進:萎縮せず挑戦することの重要性
- ベストプラクティスやユースケースの公開:知見の共有による業界全体の底上げ
- リスク対応の企業間共有:ヒヤリハット事例を含む経験共有の促進
一方、平本氏はAIセーフティ・インスティテュートの役割として「規範・基準の作成だけでなく、情報のハブとしての役割もあります。一カ所を見れば必要な情報が集まる状態を目指し、様々な組織と連携して知識を共有することが重要です」と説明した。
日本のAIガバナンスの確立については「海外の機関と話していても、各国が全ての分野で同じことをするのは難しいので、分業や得意分野を活かして協力していくことが自然と話題になります。例えば、日本はロボティクス、センサー技術、ヘルスケア、データ品質などの分野に期待されています」と述べている。
この考えに基づき、海外と連携していくために、データ品質ガイドラインを英語で発表する取り組みを紹介。また「産業界と協力してワーキンググループを設立し、データマネジメントのような横断的な課題だけでなく、産業別のガイドラインも作成したい」と今後の展望を語った。

「私たちが『AIセーフティ』に焦点を当てていることに対して、『安全性だけでなくイノベーションも重視したい』という意見もあります。私たちが設立された際には『イノベーションのためのセーフティ』という考え方があったので、視野を広げながら産業界の方々とワーキンググループで具体例を作っていきたいと思います」と締めくくった。