アドビが「Adobe Summit 2025」で新たなAIエージェント戦略を発表した。その中核となる新基盤「Adobe Experience Platform Agent Orchestrator」は、企業の保有データを活用して複数のAIエージェントを効果的に連携させ、マーケティング業務の効率化と収益モデルの変革を可能にする。本稿では、アドビ幹部への独自取材から得たこの革新的プラットフォームの狙いと具体的役割について詳述する。
AIエージェントの核「Adobe Experience Platform Agent Orchestrator」

アドビのAIエージェント戦略の核心となるのは、同社がデータ基盤として提供してきたAdobe Experience Platform(以降、AEP)上に新たに構築された「Adobe Experience Platform Agent Orchestrator(以降、AEP Agent Orchestrator)」である。このエージェントオーケストレーションの仕組みがAEP上に戦略的に配置されている理由は、「AIシステムはデータソースにできる限り近接した場所に構築すべき」という設計思想に基づいている。この配置により、データアクセスの大幅な効率化とAI処理の最適化が実現され、企業のデジタルトランスフォーメーションを加速させる基盤となっている。

企業が保有するデータ資産は種類も量も多岐にわたる。このデータ資産を活用する時、最初にやらなくてはならないのがデータのコピーだ。例えば、顧客の購買行動を予測しようと考えたとする。多くの企業では、必要なデータセットを用意して予測モデルを作るのは、データサイエンティストの役割かもしれない。問題は、ビジネスユーザーにモデルを提供するまでにタイムラグができることだ。月次更新だとして、毎月データのコピーから同じプロセスを実行するのか。そこでアドビは、データのコピー自体を不要にしようと考えた。そのために提供するのがAEP Agent Orchestratorになる。
AEP Agent Orchestratorは有償製品として提供されるものではないが、AIエージェントを支える極めて重要なテクノロジー基盤である。基調講演において、アニール・チャクラヴァーシー氏(アドビ デジタルエクスペリエンス事業部門代表)はAEP Agent Orchestratorを構成する4つの主要要素として「用途別エージェント」「マルチエージェントコラボレーション」「推論エンジン」「カスタマーエクスペリエンスモデル(CXモデル)」を紹介した。以下では、パルサ氏による各要素の詳細な解説を通じて、アドビの包括的なAI戦略の全体像を明らかにしていく。
数で示す通り、アドビが新しく発表したAIエージェントは、全て目的特化型であることを特徴としている。その内訳は、「Site Optimization Agent」「Content Production Agent」「Audience Agent」「Data Insights Agent」「Data Engineering Agent」「Product Advisor Agent」「Experimentation Agent」「Account Qualification Agent」「Journey Agent」「Workflow Optimization Agent」の10種類だ。
今後に向けては、さらに多くのAIエージェントの提供を予定しているが、第一弾として選ばれたのは、マーケティングチームに大きな負荷がかかっている業務を改善するものばかりだ。その背景には、できるだけ早くビジネス成果を得てほしいという思いがある。Adobe Experience Cloudのアプリケーションユーザーは、AEP Agent Orchestratorのメニューから、必要に応じてAIエージェントにアクセスすることになる。

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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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