AIエージェントの新たなビジネス戦略:消費ベースの収益モデル

最後にAIエージェントの価格戦略について、「AIエージェントの提供は、消費ベースを前提に考えている」とパルサ氏は明かした。これは既存のSaaSの収益モデルとは別の収益モデルを採用することになる。
Adobe Creative Cloud導入からサブスクリプションモデルを採用したことで知られるように、アドビの顧客はサブスクリプションでアプリケーション製品を利用している。サブスクリプションモデルでは、解約されることなく、利用し続けてもらうことが事業の安定的成長に欠かせない。新規導入後に来る最初のハードルが、利用方法がわからなくてつまずくことだ。これを避けるため、多くのSaaSベンダーはオンボーディングプログラムを用意し、トレーニングを提供している。特に、アドビのように、業務ドメインに特化したビジネスアプリケーションの使い方を学ぶことは、業務スキルを高めるプロセスでもある。そう考えると、オンボーディングはとても重要だが、これからAIエージェントを使える環境が整えば、現状が変わる可能性がある。AIに伴走してもらいながら、製品知識を習得しつつ、業務を進められるようになってもおかしくはない。
一方で、業務スキルを獲得することに対して、対価を支払うのは妥当なのか。これまでも予測のためにAI機能を利用してきたのに、さらに追加料金を払わなくてはならないのか。それはアプリケーションのサブスクリプション料金の中に含まれているべきではないかと、プランの妥当性に疑問が生じる。アドビが考えているのは、AIエージェントはプレミアムサービスを提供するものと位置付け、利用する場合にだけ、対価をもらう消費ベースの収益モデルを併用することである。例えば、マーケティングキャンペーンのターゲットオーディエンスを作成したいと考えたとしよう。熟練のマーケターであればできるが、実際にはとても時間がかかる作業だ。それが数分で終わる。ならば、成果に応じた対価を払う収益モデルを採用することが合理的だ。
実際には、顧客の利便性に配慮し、利用上限や追加購入を気にすることなく使えるAIクレジットを付与するやり方を検討しているが、2つ目の収入源ができることは確実だ。「この考え方をウォールストリートは歓迎している」とパルサ氏は話す。なぜならば、従業員数で決まるサブスクリプションモデルには人口という上限があるが、別建てにすることで新しい成長機会を創る余地ができるからだ。
これまでもアドビは企業に価値創造を促すAI機能を提供してきたが、AEP Agent Orchestratorは、AIエージェントの基盤として、Adobe Experience Cloudの各アプリケーションの機能を拡張し、AIエージェント戦略の成功を支えるテクノロジーになりそうだ。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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