攻めと守りを両立させたIT投資の最適化術──CIOを悩ます「部門の分断」問題を解決する一手とは
部門を跨いだ“共通言語”の役割を果たす「TBM」とは何か?
なかなか成果が出ないIT投資の最適化……有効な一手は何か
しかし、実際にIT投資を最適化しようにも、なかなか思ったように進まない企業も多いことだろう。その背景として田中氏は、「IT部門、財務部門、ビジネス部門間の分断と、経営層からのIT部門への不満がある」と説明する。Gartnerのレポートによれば、多くの企業のCEOがAIやDXに重点を置いている一方で、CIOは「ITがどのようにビジネスに寄与しているか」を示すことに課題を感じているという。また、ITコストとビジネス価値のバランスを取るためのITファイナンス管理、すなわち「テクノロジー投資の財務的価値」の証明に課題感を持つCIOも少なくない。
日本企業が抱える課題に焦点を当ててみると、CEOがIT部門に抱く不満の上位には、「デジタル活用の提案がない」「ITのビジネスへの価値貢献がわからない」といった声があげられている。
IT投資管理については、ほかにも「どのようなテクノロジー投資から最大のリターンが得られるのか」といった新規投資に関する悩み、「全社共通基盤のITコストが増え続けており、新規投資に回せない」といった既存経費の圧迫の問題などがあるだろう。
さらに、「自部門でもより素早く最新テクノロジーを導入し、ビジネスを効率化したい」という現場からのポジティブな意欲も耳にする一方、それを容認しすぎると各部門が勝手にシステム導入を進めてしまい、ガバナンスにかかわるリスクも生じてしまう。
「こういったIT投資に関わる関係者間の“疑問と分断”を打破する一手として、TBM(Technology Business Management)の導入があげられる」と田中氏。TBMとは、すべての組織がテクノロジー投資やコスト、リソースを適切に管理し、ビジネス価値最大化するための方法論を指す。言い換えれば、“自社独自のビジネス価値を見出すための戦略的なテクノロジー投資”である。
なお、TBMはApptioの創業者であるSunny Gupta(サニー・グプタ)氏が提唱したものだ。同氏が「多額のITコストの妥当性を経営層に説明できない」という課題を耳にしたことをきっかけに、企業のCIOやCFO、McKinsey、Deloitteといった大手コンサルティング会社と協力しながら、今のTBMという方法論が練り上げられていった。
また、TBM実践の推進にあたっては「TBM Council」という非営利団体組織が重要な役割を担っている。団体規模は巨大で、2024年時点で世界100ヵ国以上から4,000の組織、1万8000人を超えるメンバーが参加。ボードメンバーには、各分野の大企業のCIOやCFOが名を連ねているという。国内でも、2025年5月に「TBM Council Japan」のラウンドテーブルが開催され、IT投資管理やビジネス戦略とのアラインメントについて、業界を問わず多くのリーダーが議論を深めあった。
「前述したように、『経営層にIT投資の財務的価値をうまく言葉で説明できない』といった課題を抱えているCIOの方は多くいらっしゃいます。TBMは、『意思決定を行うための共通言語』の役割を果たし、テクノロジー投資をビジネス価値向上につなげるための懸け橋になりうるのです」(田中氏)
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EnterpriseZine編集部(エンタープライズジン ヘンシュウブ)
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