村田製作所が挑む「自律分散型DX」の現在地──80年の歴史に新たな基盤を築くDXリーダーの覚悟
大規模フルスクラッチ基幹システムを大転換へ、人材育成と基盤整備の両輪で進める変革
「製造業にこそ日本の勝ち筋がある」国全体の生産性向上に使命感
須知氏が示すDX推進における最大の課題は、80年の歴史を持つ老舗企業での組織変革だ。「現場はそれぞれ自律している」と現場力を評価する一方で、「部門や事業をまたいで横串で、より大きく変えていくことがチャレンジ」と横断的な取り組みの難しさを認める。こうした状況を踏まえ、変革の推進について現実的なアプローチを採用しているという。「横串でのDX推進は試行錯誤しながら取り組んでいるところです。強制的に進めるのではなく、なぜやるのかを丁寧に説明しながら現場とともに推進しています」と述べた。
DXの機運を醸成するため、全社イベントや好事例共有の場を継続的に開催し、リアルとバーチャルを組み合わせた情報共有も行っている。取り扱う事例数は年々増加しており、社長方針や中期経営計画にもDXの内容を織り込んでいる。須知氏は「小さくても実感できる成果を積み重ねることが重要です。将来の姿を示してコミュニケーションを取ると同時に、成功事例を着実に増やしていきたいと考えています」と実践的な戦略を語った。

また同氏は厳しい現実も隠さなかった。「我々はここ3年間で売上こそ落ちていないものの、大きく伸びてもいません。このままではいけないと感じており、成長軌道に戻さなければならないという危機感は非常に強いです」と率直に語る。
この危機感は、DX推進の加速要因となっている。2024年までを「DXの土台作りと実証を進める期間」と位置づけ、次期中期計画では具体的な成果創出に焦点を移す計画だ。「これまでは様々な基盤整備を進めてきましたが、次の中期では、今までの取り組みによる具体的な改善や顧客価値の向上を実際の成果として示せるかどうかが重要なポイントになります」と転換点としての重要性を強調する。
最後に今後の展望について尋ねると、須知氏の視点は自社を超えて日本の製造業全体に向けられていた。「日本の製造業は継続的に生産性向上を実現してきた実績があります。ソフトウェアの重要性が高まる中でも、ハードウェアを革新し、より困難な技術課題を解決していく力こそが日本の勝ち筋だと考えています」と製造業の価値を改めて指摘する。
「日本の製造業をさらに強化するという観点からDXを推進し、AIを積極的に活用していきたいと思っています。他社とも連携を深め、それぞれの取り組みを学び合いながら、日本全体の競争力向上に貢献できればうれしいです」(須知氏)
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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