米国・公共機関のキーマンと考える、AIの進化との付き合い方──自律的であっても人間の確認は不可欠
「AWS Summit Washington, DC」セッションレポート
行政に眠る、大量の“紙資産”をAIが一掃する未来も?
AI技術の責任ある導入について、各組織は独自のアプローチを展開している。
Crawford氏は、テキサス州での包括的な取り組みを紹介した。同氏は数年前に公共機関の関係者を対象としたAIユーザーグループを数年前に設立したと話し、現在は700人以上の規模になっているという。このユーザーグループでは「非公式な会議ではあるが、参加者同士で政策やベストプラクティス、使用例を交換したり話し合ったりする。さらに、倫理的展開について、なぜそれが重要かについて会話をし続けている」と述べ、実践的な知識共有の価値を示した。
責任あるAI開発の基本原則について、Malik氏は組織的アプローチの重要性を挙げる。「AI利用において、まずは組織における価値観を考え、それを組織全体に浸透させなければならない」と指摘し、「公平性」や「透明性」に関するAI原則を確立し、それを組織戦略に組み込む必要性を説いた。さらに、Malik氏は「信頼と透明性は、後から付け足すことはできない。つまり、それらはモデル開発の開始時点から実行される必要がある」と続ける。
Chhabra氏は、Anthropicでの具体的な取り組みを紹介した。同社では、AI整合性のための憲法的な枠組みを設けており、この仕組みについて透明性を保っているという。また、リスク評価のための専門チーム「フロンティアレッドチーム」を設置し、潜在的なリスクの特定と対策に取り組んでいる。さらに、Claude 4では、160ページに及ぶ詳細なモデルカードを公開し、評価結果やテスト内容、潜在的なリスクを包括的に開示しているとした。
公共機関のリーダーへのアドバイスとして、Malik氏は「AIの旅は主に文化的変革プログラム」と述べ、「完璧になるまで待たずに、パイロットを始め、何が機能するかを見て、適切なガードレールで実験する」ことを推奨した。Chhabra氏は「迅速に採用・実験する一方で、これらのツールがあるときに正しい構造になっているかを考え直す」と付け加えた。
Crawford氏は、テキサス州AI評議会での経験から政府特有の課題を説明した。AI評議会では「誰も最初になりたくないし、誰も最後になりたくない」という公共機関特有の慎重姿勢を持つ機関がある一方で、積極的に取り組む機関もあると話す。別の観点として、公共機関でのAI展開には独特の制約があることも指摘する。「政府では公文書法、記録保存法など、特にデータ使用に関して困難になる可能性がある多くのことがある」と述べ、AIなどの新しい技術導入時には、目新しさに惑わされずに、規制フレームワークを理解した上で展開することの重要性を強調した。
今後の展望について、Chhabra氏は「国家安全保障で後れをとっている分野で飛躍的な進歩を助けるために技術を展開すること」への期待を語り、Malik氏は「AIが政府をどのように近代化し、これらの機関全体でミッション・インパクトを推進するかを見ること」と述べた。
Crawford氏は州政府の文書保管の現状を、映画『レイダース/失われたアーク』の終盤に出てくる「箱で満たされた巨大な倉庫」に例えて説明。この倉庫は「紙で満たされている」状態だが、Crawford氏はAIで、数千万に及ぶこれらの紙の文書が「利用可能なデータ形式に変換する」ことが可能になったと述べる。「人間が手作業で行えば、無数の時間と労力がかかり、おそらく誰も着手しなかったであろう」作業であるとし、AIが行政の非効率な「負債」を一掃する力を訴えた。
エグゼクティブ向けセッションながら、立ち見がでるほど多くの聴衆を集めた
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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