「減点方式」の業務を変えるコスト意識、コミュニケーション能力
インフラエンジニアのモチベーション管理は、多くの企業にとって共通の課題だ。システムは稼働して当たり前。何も起きなければ100点だが、障害が起きれば減点評価されてしまう。どれだけ頑張っても120点の評価を得ることが難しいのが特徴だ。この構造的な課題に対し、ラクスはどのように向き合っているのか。
永易氏が重視するのは「コスト意識」による貢献の可視化だ。特にSaaSビジネスにおいて、運用におけるコストの増減は重要な指標である。
「自分たちが頑張っていることがどれだけ会社への貢献につながっているのか、評価される点を説明しています。コストを低く抑えた運用は利益率に直結し、それが結果として顧客への安価なサービス提供という社会貢献につながるのだと伝えています」(永易氏)
具体的には、過去数年から未来にわたる売上とサーバー原価の推移、そして一般的な原価率との比較データをチームメンバーに開示しているという。特にクラウドとオンプレミスにおける費用対効果の差異を数字で見せることで、オンプレミスを中心とした運用のコストメリットを実感させ、それが競争力の源泉となっていることを認識させている。もちろん、現場のエンジニアに“財務の視点”を持たせることは容易ではないが、なるべく数字を開示することで当事者意識を醸成しているという。
また、技術スキルと同様、あるいはそれ以上に重要視されているのが「人間性」や「コミュニケーション能力」だ。特にラクスでは、クラウドネイティブオンプレミスを実装するにあたり、開発チームとインフラチームの境界線が曖昧になっていき、相互連携が不可欠になっている。
「インフラは最後の要です。責任感をもっていることが何より重要ですし、設計段階からインフラチームも介入しないと、いざ動かしたときに手戻りが発生してしまいます。だからこそ、ダメなことはダメと適切に伝えられるコミュニケーション能力を求めています」(永易氏)
特にラクスで重要視されているのは、目的のない助け合いではなく「目的に沿った助け合い」だ。「次回のミーティングまで待つのではなく、今すぐ話しにいく」といったように、ただ形式的なコミュニケーションを増やすのではなく、スピーディーかつ本質的な対話を重ねるように推奨している。
採用においても、この傾向は顕著だ。たとえば、Linuxのような技術スキルは必須としつつ、それを完璧に習熟していることよりも、自発的に課題を見つけて改善策を提案できる姿勢、問題発生時の分析力や思考力を評価しているという。
「技術的に完璧な人を求めず、人間性を重視しています。言われたから行動するのではなく、自発的に動ける人。そうした人材が活躍するためには、管理職とメンバーの関係性も重要ですので、日頃から指摘や相談を管理職側が受け入れることを意識しています」(永易氏)
インフラエンジニアの在り方とは
インタビューの終盤、話題はインフラエンジニアのキャリアへと移った。クラウド全盛の時代において、オンプレミスのスキルは時代遅れなのだろうか。永易氏は明確に否定する。むしろ、昨今の円安やクラウドコストの高騰を背景に、オンプレミスの価値が見直されているという。
「クラウドだけを知っているよりも、オンプレミスとクラウドの両方を知っている『二刀流』のほうが、間違いなく市場価値は高いでしょう。会社にとっては、事業が大きくなればなるほどクラウドのコストは重くのしかかります。もし、そのときにオンプレミスという選択肢をとることができれば、インフラエンジニアとして重宝される存在になるでしょう」(永易氏)
クラウドネイティブな技術を学びつつ、オンプレミスの知識もあわせもつ。この二刀流こそが、これからのインフラエンジニアにとって強力な武器となる。「単なる運用担当者ではなく、サービスの信頼性や拡張性を設計段階から支える役割にならなければなりません。そのためには、AIなどを利用して運用業務を楽にしていき、学習時間を確保することが最初のステップだと考えています」と永易氏。SREのような運用を高度化するためのアプローチを取り入れていき、業務負荷を下げて生まれた時間を付加価値の高いものに充てる。この好循環を作ることこそが、サービス成長を支えつづけるインフラチームの理想形だと語った。

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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
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