AI時代にもなぜ炎上プロジェクトが生まれるのか IT部門が見直すべき「3つの統制」
AIで高速化しても炎上は止まらない 大型案件の成否を分けるマネジメントの勘所
AI時代のプロジェクト炎上を招かない「3つのポイント」
1. 「起点の再定義」:業務フローから要件を組み立てる
はじめに、CIOや情報システム部門長が変えるべきものは、プロジェクトの「評価対象」です。納期を遵守することではなく、利用率・業務処理時間の短縮、脱・Excelの割合といった業務成果を評価指標に据える。これだけで要件定義の意味合いが「納期」から「使われること」へと変わります。
機能不全、つまり動くものの使われないシステムが生まれてしまう最大の原因は、要件定義を「システム中心」で始めることです。どの画面が必要か、どの機能を作るかから議論しても、本当に使われるシステムにはなりません。誰が何に困り、どう意思決定しているのかという業務フローを理解することで、初めて本当に必要な機能と不要な機能が見えてきます。
そこで変えるべきは、「承認の基準」です。文書を読み合わせるだけの形式的な合意をやめて、誰もが理解できる形──実際に動くプロトタイプや業務フロー図──で合意を得る。こうした要件の意思決定権は、システムを使わないIT部門ではなく、現場(事業部門)に置くこと。その上で、最初から作り込まず、本当に必要な機能に絞って小さくリリースし、反応を見ながら広げていく。
AIのおかげで、業務フローをすぐに可視化したり、プロトタイプを数日で作れたりするようになりました。現場は、実際に画面を触ることで初めて「この操作を1日に何百回も繰り返すのは無理だ」と本音を口にします。要望をうまく言葉にできない現場からも、プロトタイプのように動くものがあれば、本当の使い勝手を引き出せるのです。
ただし、現場に意思決定権を渡すことは、要望をすべて受け入れることではありません。IT部門の役割は、業務とビジネスを理解したうえで、その要望は本当に必要か、業務を変えれば解決できないかと問い返すことです。筆者は、要件定義で最も重要なことは「やること」を決めるよりも、「やらないこと」を決めることだと考えています。それこそがIT部門の“統制”なのです。
2. 技術検証で「できる」を確認する
予算超過を防ぐためにもIT部門がにぎるべき統制は、技術検証を“プロジェクト承認の必須ゲート”にすることです。PoCで「成立する前提」を示せていない案件には予算を付けない。承認の場では技術リスク、前提条件、本番想定コストを必ず確認する。こうしたルールを設けるだけでも、予算超過の多くは入口で防げます。
予算を超過してしまう原因の多くは、技術力ではなく「できる前提」で要件を決めてしまうことだと考えています。たとえば、AIによるレコメンド機能を既存モデルで対応できると判断したものの、自社データだけでは期待した精度が出ず、追加学習や別方式への切り替えが必要になってしまった。このようなケースは珍しくありません。
また、AI特有の落とし穴もあります。生成AIによって、PoCを数週間から数時間に短縮できますが、その安くなったPoCを承認ゲートに組み込めている企業はまだ多くありません。さらに、AIを用いたシステムはPoCでは安く動きます。しかし、本番環境では別の話です。利用量が増えれば、コスト構造は変わります。たとえば、定型的な処理は従来通りにさばき、判断の難しいケースだけAIに回す。そのように使い分けるだけでも、運用コストは大きく変わります。
つまり、「動いた」と「事業として成立する」は別物だということです。要件定義の段階でPoCと技術調査を行い、前提条件と本番想定コストを文書に残す。投資判断を着手後ではなく、入口で行うことが予算統制の核心です。
3. 「オーナーシップの再定義」:意思決定者を1名に絞る
プロジェクトの遅延を防ぐためにIT部門が設計すべき統制は、意思決定の「権限」です。要件の意思決定者を“責任を負える”1名だけに明確に指名する。決裁ラインを短くし、エスカレーションの宛先を1人に集約すれば、判断の度に会議を待つような滞留する時間がなくなります。指名する1名には、事業責任を負うことができ、事業部門にもベンダーにも「待った」をかけられる人物を据えること。あわせて、それに見合う権限も与えます。なお、ここでいう責任とは、事業の成否が評価に直接影響することを指します。
遅延プロジェクトの多くは、技術的な問題ではなく「決める人がいない」ことで起きます。その典型が複数部門の合議制です。自部門に関係の薄い論点には誰も踏み込まず、自部門のメリット・デメリットだけで判断するため、事業成長を前提にした意思決定ができなくなってしまう。だからこそ、権限は事業責任を負う1名に集約しなければなりません。責任を負わないのに権限だけを持つ人に決めさせてはいけません。何を作り、何を作らないかを決め、その結果を引き受ける。この責任をとるという仕事こそ、AIには代替されない、人間に残る役割です。
その意思決定を支えるものこそが「透明性」です。成果物、やり取り、意思決定までのログを1ヵ所に集約し、意思決定者がいつでも状況を把握できるようにする。あわせて、「問題ありません」という曖昧な報告を許さず、何が決まり、何が未決定かを必ず説明させる。遠慮による確認不足こそ、後の手戻りと遅延の温床になるからです。IT部門・事業部門・ベンダーの3者にまたがる「言った・言わない」をこの仕組みが構造的に減らします。
筆者は、AIによって意思決定者の役割が重要になると考えています。事業部門の企画書も、IT側の設計書も、AIに解析させれば、そこに書かれている以上の前提や見落とし、矛盾を短時間で引き出せます。これは技術とビジネスのすべてを完璧に把握していなくても、要所で「待った」をかけられるようなことです。人手では追いきれなかった成果物や議論、変更履歴をAIが整理・要約し、論点を浮かび上がらせる。AIによって意思決定者が確認できる情報量は10倍、100倍と増えていきます。だからこそ、AI時代ほど「誰が決めるのか」を明確にしなければなりません。情報量が増えても、最後に責任を負って決める人は増えないからです。意思決定者の価値は、これまで以上に高まります。
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松本 均(マツモト ヒトシ)
株式会社ROUTE06 創業取締役 / Acsim事業責任者ベイカレント・コンサルティングにてITコンサルタントに従事した後、楽天株式会社およびヤフー株式会社にてEC・広告システム・データプラットフォーム領域の設計・開発を担当。ストライプデパートメントにて執行役員CTO、Welbyにて執行役員/開発...
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