日立製作所はHSIF 2026の基調講演で、フィジカルAI、データセンター、サイバー防御、FDEを束ねる事業戦略を示した。また記者会見では、HMAXの各施策と現場実装を担うPhysical AI FDEの取り組みが紹介された。この2つの発表を手がかりに総合力を事業へ変える仕組みを読み、後半では日本の大手IT・SI企業やAI企業による日本型FDE戦略との比較をする。
日立のAI戦略は総力戦、競争優位性はフィジカルAI領域
日本の大手IT企業が、FDE(Forward Deployed Engineer)を名乗り始めている。顧客の現場に入り込み、観察から設計、実装、運用までを担う職種だ。ただし現場に人を置くことと、本家と同じ仕事をしていることは、同じではない。日立製作所はIT、OT(制御・運用技術)、プロダクトを一つのチームに載せて現場へ入る。その構えを総合格闘技にたとえるなら、勝敗は技の数ではなく、技を型にできるかどうかで決まる。
日立製作所が9月3日に開いた「Hitachi Social Innovation Forum 2026 JAPAN」の基調講演で、德永俊昭氏(執行役社長兼CEO)は「100年後にこの2026年が教科書へ載るとしたら自分なら“フィジカルAI元年”と書く」と切り出した。
自動化は、人があらかじめ決めた通りに機械を動かすことだ。フィジカルAIが実現するのは自律化であり、状況の変化に応じて現場のプロセスや機器が自ら判断して動作する、と德永社長は定義した。
そこへ、2040年に1,200万人の労働力が不足するという日本固有の事情が重なる。守るべきインフラは増え、現場を支える人は減っていく。この矛盾に向き合う鍵がフィジカルAIだ、というのが同社長の見立てだ。
では日立はどこで戦うのか。德永社長はフィジカルAIの実装を4段階に整理し、物理法則の学習とデジタルツイン上の試行錯誤という前半2段階はNVIDIAが担うのに対し、業界固有のルールを学ばせて現場で動かす後半2段階こそ日立の領域だと位置付けた。
ITに80年、プロダクトと不可分のOTに116年の蓄積があり、それらを現場で統合できる点が根拠だという。
その具体形がAIサービス群の「HMAX」になる。鉄道では、走行する車両のデータをAIで分析し、保守コストを15%削減できたという。德永社長はHMAXを「社会インフラを動かすOS」と呼び、今年度末に売上高5,000億円の事業へ成長する見込みを示した。
この日発表された中核は、データセンター向けのHMAX Data Centerと、現場の暗黙知をAIが使えるデータへ変換するPhysical AI FDEだ。データ基盤「HMAX Data Fabric」は、現場知を型にする受け皿となる。
日立の「Physical AI FDE」、“なんちゃってFDE”を超えられるか?
同イベントの会場では、新ソリューション ローンチの記者会見も開かれた。登壇は6人。全体設計を説明した黒川亮氏(全社CLBO兼HMAX戦略統括室長)に、個別サービスの担当者が続いた。尾崎慎一氏はHMAX Data Centerと「HARC for Data Center」(Hitachi Application Reliability Centers)を、小岩博明氏と筆頭ホワイトハッカーの青山桃子氏はHMAX Cyberを、佐佐木秀貴氏はHMAX Data FabricとHMAX AI Operationsを、吉田順氏(HMAX&AI推進センター本部長)がPhysical AI FDEを紹介した。
会見の骨格を黒川氏が説明した。今年はフィジカルAIに注目が集まっているが、日立が違うのはその下に2つの層を持っている点にあり、データセンターそのものと、エネルギーだと言う。
IT側の上の層まではサイバー防御ができてきた。これから必要なのは、現場の機器まで含めた守りだ、と黒川氏は続ける。顧客だけ、あるいは1社だけでそれを組み上げるのは難しい、と黒川氏は語る。
吉田氏は、Physical AI FDEを「フィジカルAIの技術で新しい価値をもたらすために伴走するエンジニアリングサービス」と定義した。顧客に合わせてHMAXを組むエンジニアリングがFDEだ、という位置付けである。黒川氏の「1社では守れない」は、守りを誰が実装するかという問いへ跳ね返る。答えとして置かれたのが、この実装チームだった。
黒川氏が挙げた「1社では組み上げられない」という難所は、そのまま部隊の組み方にも効いてくる。吉田氏が特徴として挙げたのは、ドメイン知識とモノづくりの実績を持つITとOTとプロダクトのエンジニアが、組み合わさったチームで動く点だった。
「フィジカルAIの時代のFDEはチームでやるべきだ」と吉田氏は言う。顧客に伴走するFDEは最新情報に触れにくくなる。後方にはFrontier AI Deployment Center(FADC)を置き、Anthropic、Google、OpenAIと連携して得た知識を前線へ供給する二段構えをとる。FDEという言葉がいまどう使われているかにも、同氏は自覚的だった。
「メディアでは“なんちゃってFDE”という言葉が語られる中で、“これはFDEだ”と胸を張って言えるものを出したい」(吉田氏)
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
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