日立製作所のフィジカルAI戦略の強みは何か?
このうち方法論と、それを鍛える現場について、日立の答えは比較的はっきりしている。黒川氏が挙げた2つの層、すなわちデータセンターとエネルギーという、ソフトウェアだけでは入り込めない物理の層である。
データセンターは建設地が決まっても業者が集まらない。ならばモジュール型やコンテナ型を勧める。電力が要ると言っても、その電力を作るものが要る。だから変電所向けの変圧器や小型モジュール炉、サーバーに取り付けるUPS(無停電電源装置)まで手がける。顧客になるのはOpenAIやAnthropic、Microsoft、NVIDIAといった、止めてはならないシステムを抱える企業だという。
データセンターの電力も冷却もIT機器も、別々の管理システムで動いている。IT、OT、プロダクトを製品としても知見としても持つ企業なら、不具合の波及を並べて分析できる。116年にわたって現場を支えてきた蓄積は、短期間では再現しにくい。
その具体形が、この日提供を始めたHMAX Data Centerだ。第一弾の「HARC for Data Center」(Hitachi Application Reliability Centers)は北米向けで、電力・冷却・ITを横断した統合運用を掲げる。日立はHARCを通じて80社超のクラウド運用で運用費を約30%低減した実績と、グループ内で30年以上データセンターを運営してきた知見を強みに挙げた。国内向けの統合管理サービスは2027年1月の提供開始を予定している。
フィジカルAIの実装部隊を鍛える場として、データセンターは都合がよい。電力、冷却、IT機器、サイバー防御が一つの現場に重なり、ソフトウェアだけでは解けない。Physical AI FDEがITとOTとプロダクトの混成で入る必然も、ここに出やすい。国内版が動き出す2027年1月は、構想が現場の型になるかどうかを見る早い試金石になりそうだ。
德永社長は基調講演で、日本社会が育んできた高信頼・高性能な製品と、そこから日々生まれる高品質・高精度なデータや運用ノウハウこそ、フィジカルAIの実装に欠かせない資産だと語っていた。オントロジーが情報分析の現場で鍛えられたのなら、日本のそれは製造とインフラの現場で鍛えられる。そういう答えだと受け取れる。
説得力はある。ただし、現場の経験とデータが豊富にあることと、それが活用できるデータになっていることは、同じではない。暗黙知の厚みは繰り返し語られるが、それを誰がどう方法論として固めたのかは、まだ判然としない。
それでも日立には可能性がある。HMAX Data Fabricでオントロジー化に踏み込んでいる以上、現場知を形にする素地はすでにあるからだ。そして、IT、OT、プロダクトのすべてを1社で抱え、その全部を使って現場の実装まで取りにいく。この構えを国内で取れる会社は、そう多くない。その構えを、基調講演ではこう言い表していた。
「ITだけでも、OTだけでも、プロダクトだけでもありません。それらを現場で統合し、安全かつ持続的に価値へ変えていく力なのです」(德永社長)
Physical AI FDEは、その力を事業の形にするために置かれた仕掛けだと読める。フィジカルAI元年と宣言した年の成績表は、現場知がHMAX Data Fabricへ還流したか、Physical AI FDEの初期案件が顧客の現場で動き出したか、だろう。HMAXの5,000億円は、その結果として後からついてくる数字にすぎない。
ベンダーのFDEを見分けるなら、人数や常駐の有無より、現場から何を持ち帰り、次の現場へ移せる型になっているかを問うほうが早い。並べた構想が掛け声のまま終わるのか、それとも顧客の現場で実際に動き出すのか。判断の材料は、そう遠くないうちに出てくる。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
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