インターネットイニシアティブ(IIJ)は1992年の設立以来、インターネット分野における技術やサービスの開発・提供において、文字どおりイニシアティブを取り続けてきた企業である。創業者として18 年間にわたって同社そして国内インターネット業界を牽引してきた鈴木幸一氏は今、クラウドコンピューティングの台頭や国内外のインターネット技術および業界の動向を、どのように見ているのだろうか。今回、クラウドが導くインターネットの新たなフェーズにおいて、IIJ自身や日本企業がクリアすべき課題について、鈴木氏の見解を舌鋒鋭く語ってもらった。(前編はこちら)
クラウド・モデルの適用で考慮すべき観点は何か
― 昨今、自社におけるクラウド・コンピューティングの活用が、業種や規模を問わず共通のキーワードとなっています。IT資産を所有せずサービスを利用するというクラウド・モデルをどのように捉えていますか。
ビジネスでのインターネット利用が本格化し、企業のコンピュータ・システムはインターネットを前提に設計されるようになりました。その流れに沿っていけば、リソースの共用化やアセットレスというクラウドの考え方は、ごく自然な利用形態として受け入れることができると思います。

日本の企業にとって最大のハードルとなるのは、長年の習慣で培われた、情報システムの構築・運用に対する考え方かもしれません。よくある、あらゆるシステムを自社の業務に合わせてカスタマイズして競争力を高めるという考え方が染みついている企業だと、クラウドの考え方をなかなか受け入れることができないでしょう。
特に、多額のコストをかけて長く保有してきたアセットを捨てるという決断は非常に困難です。企業のCIOやITマネジャーには、今までのやり方を続けてもよいのか、共用化してもビジネスに大きな影響を与えないのかといった見極めが迫られています。
一方、クラウドの活用が進んでいると言われる米国ではどうでしょう。1990 年代にインターネットが台頭し、これからは前提になるという時点で、多くの米国企業は旧来のメインフレーム・コンピューティングに縛られた考え方に固執するCIO、言い換えれば、自分で作ったものを自分で壊すことのできないCIOを切り捨てています。このように彼らは、早い時期にクラウドを受け入れる素地を整えていたわけです。それを考えると、我が国の伝統的な企業の大半がクラウドを受け入れ、使いこなすまでにはまだ時間がかかりそうな気がします。
― ここでも、利用する側の意識や適用能力が問われるというわけですね。いわゆるクラウド時代に、日本企業がうまく対応していけるようなすべはないのでしょうか。
クラウドに限った話ではないのですが、これからの時代に、日本企業ならではの良さが生きる局面もあると思います。IIJを長年経営してきた経験から言えるのは、日本企業特有の人材が鍵を握る可能性があるということです。
ご存じのように、企業では、すべての社員が高度な業務を担当するわけではありません。システムやネットワークの構築や運用にあたって、その信頼性や安全性を支えるのは、一定のポリシーに基づいて忠実に担当業務をこなす、高いモラルをもったエンジニアたちです。
私自身、長年そうしたエンジニアたちの仕事ぶりを見てきたので、「IIJのインターネット・サービスの運用技術は世界トップレベルだ」と胸を張って言えるわけです。今後、日本が世界に誇れるクラウド・サービスを提供していくとき、日本の優秀で勤勉な人材に支えられたサービスの高い品質や信頼性が大きな武器になりえると考えています。
ただ、そうは言っても、勤勉さがとりえの人材だけでは革新的なサービスは生まれてこない。インターネット・ビジネスの重要な側面である、世の中のニーズを迅速に汲みとって画期的なサービスを次々と開発していくような動きには対応できません。インターネットの世界での事象は絶えず流動的で、品質が安定するより先に、画期的な、便利なサービスを提供するということが優先されますので。
そのカルチャーに適応できる者だけが、圧倒的なイノベーションを生み出せるわけです。もちろん、IIJ自身にとっても課題となります。誰かが作った技術でも、それを高品質なサービスに組み上げて運用することについてはどこにも負けない自信がありますが、それと同時に、自分たちがグローバル・スタンダードとなるような世界初のサービス、イノベーションを生み出していきたいですね。
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河原 潤(カワハラ ジュン)
ITジャーナリスト 明治大学文学部卒業後、教育系出版社を経て、1997年にIDG入社。2000年10月から2003年9月までSun/Solarisの技術誌「月刊SunWorld」の編集長を務める。同年11月、企業コンピューティングの総合情報誌「月刊Computerworld」の創刊に携わり、同誌の編...
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