多くの企業が実現できていないBPMは実現すればビジネスチャンスに
自社の業務プロセスを継続的に改善し、市場の変化に素早く柔軟に対応する。全社的に統合された情報を基により的確な経営判断を下す。卓越した業務プロセスを持って市場における競争優位性を獲得する。BPMが提唱する理想に異を唱える声はそれほど多くないはずだ。実際、多くの企業がこれまでBPMを実践、もしくは関心を示してきた。
しかし、BPM自体が決して簡単な取り組みではないことは周知のとおりだ。一般に新たなシステムを導入する際の負担はビジネスに近ければ近いほど大きくなる。日ごろ慣れ親しんだ業務の進め方に影響を来たすような動きに対して、人々は多かれ少なかれ抵抗を示すからだ。BPMはまさに企業の業務プロセスそのものを扱うため、セクショナリズムの壁やリーダーシップの不在など組織に起因する問題に直面しやすい。
また、いまやビジネスにとって不可欠な存在となったITシステムもサイロ化という壁となって立ちはだかる。ある調査資料によれば、85%のCEOが現状のビジネスプロセスの可視化に満足しておらず、その原因としてITシステムの硬直性をあげている企業も多いという。
一筋縄ではいかないBPMだが、競争優位性の大きな源泉と捉えることも可能だ。「多くの企業がBPMを実践できていない現状では、ビジネスを効率化することによって得られる利益は大きい」(保坂氏)。
実際に、他社に先駆けてBPMに取り組んだ結果、競争力を獲得した先進企業は少なくない。ビジネスプロセスの無駄を60%削減した大手銀行、パートナーとの連携に要する時間を50%削減した航空貨物会社、リアルタイムの見える化を行ってデータ連携コストを20%削減した小売業。では、このような成功事例に自社の名を連ねるためにはどのような取り組みが必要なのだろうか。
11月24日に開催されたIBM BPM FORUM 2010に講師として登壇した日本アイ・ビー・エム ソフトウェア事業 WebSphere クライアント・テクニカル・プロフェッショナルズの保坂大輔氏はBPM実践の要諦について、「人や組織に関する課題については、基本的にはお客様自身の手で解決していただかざるを得ない問題。しかし、BPMを実践する段階で直面する業務プロセスの設計やITシステムの統合といった課題については、われわれの豊富なノウハウが役に立つはず」と述べる。社内で一定のコンセンサスを醸成した上で、必要に応じてプロフェッショナルの手を借りるというのが定石といえるようだ。
BPMを行うために人間中心で行くかITシステム統合で行くか
各ベンダーからさまざまなツールやソリューションが提供されているBPM分野だが、そのアプローチを大まかに分類すると、「Human-Centric」「Integration-Centric」「Content-Centric」の3つになる。
Human-Centricは、「申請する」「レビューを行う」「承認する」など、人間の目から見たビジネスの流れに着目してプロセスの設計や改善を行う。日ごろの業務をフローチャートなどに落としこみ、最適なプロセスを探るアプローチだ。
一方、Integration-Centric ではITシステムに注目する。例えば、サイロ化したシステムに横串を刺して全体最適化を行うためのプロセスの統合を目指す。Content-Centricでは、その名のとおり作業のインプット・アウトプットとなる成果物に注目してプロセスを管理する。
各アプローチには、それぞれBPMN(Business Process Modeling Notation)、BPEL(Business Process Execution Language)、ECM(Enterprise Contents Management)という言葉が出てくることが多く、各ベンダーのソリューションがいずれに属するものなのかを把握する目安になる。
さて、以降はHuman-CentricとIntegration-Centricに絞って話を進めよう。BPMの実践はアプローチを選択するところから始まる。
企業ごとに状況やニーズは異なるため、いずれのアプローチが最適であるかは一概に言えないが、「判断に迷うようであればIBMなどが提供しているアセスメントサービスを利用するのもひとつの手」(保坂氏)と言えそうだ。
また、クラウド環境でプロセスの文章化や可視化を支援するサービス「Blueworks Live」では標準テンプレートを手がかりにして、自社の状況を把握できるようになっている。いずれにせよ、自社の状況を把握した上で、適切なアプローチを探っていくことになる。